紙切れを一枚追加してから、レイチェルは手札を机に伏せた。

「おや、カードをチェンジしないのかね?」
「ええ、もう、十分ですもの」

 レイチェルはそう言って、目を細める。それは酷く穏やかだが、どこか熱に浮かされたような危うい表情だった。
 ダニエルは小さく微笑んだ。
 いい顔をするようになったものだ。ただ、まだ甘い。

「なるほど。それじゃあこうしよう」
 ダニエルは一枚だけ、交換してから手札を眺める。とん、とテーブルでカードを揃えてからにっこりと笑った。

「オールイン」

 手元にある紙切れを全て掴んで、ダニエルはそう言う。
 レイチェルは微笑みを変えず、残り二枚の紙切れに指を這わせた。

「おじさま、こちらに合わせて五枚で大丈夫ですわよ」
「いいや、特別ルールとしよう。文字通り、全て賭けようじゃないか」

 ひくりとレイチェルの眉が動く。舌先で軽く唇を湿らせてから、彼女は口を開いた。

「……フォールド、降りますわ」

 手札をテーブルの真中に押しやり、レイチェルは溜息を吐く。

「後学のために見ておきたまえ」

 ダニエルは場に出された紙切れを全て回収しつつ、手札をレイチェルに見せる。
 ひゅっ、と彼女は息を呑んだ。

「……私はまだまだフィッシュですわね」
「誰もが最初は稚魚さ。シャークになるには時間がかかる」
「せっかく、ヒーローコール出来る機会でしたのに」

 ダニエルは小さく笑って、手札を置く。

「相手がブラフだと読み切るのはとても難しいことさ」

 ダニエルはとんとん、と自らのカードを叩いた。
 それは全く無関係な数字とマークで構成された、いわゆるノーペアだった。
 レイチェルはやれやれ、と首を振る。彼のあからさまな挑発とも取れるオールインに動揺し、読み違ったのは実力不足だ。
 弱いプレイヤー、ただ単に食われるしか能のないフィッシュだったというだけだ。

「曰く、相手のカードが見えていれば、自ずと勝つことが出来る、と」

 レイチェルは目を細める。

「それが安々とできたら、世の中大富豪だらけですわね」
「確かに」

 さて、とダニエルはカードに手を伸ばす。
 にやりと鮫のような笑みを浮かべて言った。

「賭けを続けよう」
「ええ、分かりましたわ」

 レイチェルはそれでも、逃げること無く立ち向かった。





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