空条承太郎は砂に覆われる一瞬前に《星の白金》で見ていた。狙撃手は女。承太郎たちと年は変わらないほどの。隣にいた花京院にスタンドを使って見えたイメージを伝える。

「ジジイ!」

 砂煙の中で叫べば、彼は即座に意を汲んで茨を出現させた。そのまま水と砂を混ぜて泥を作り、地面に念写を行う。
 承太郎は見えたが、それでも正確な場所は分からない。このままでは館に突入できないだろう。よしんばDIOを倒せたとしても疲れきったところを狙い撃ちされてはたまったものではない。
 だからここで倒さなくては。

「ここじゃ」

 ジョセフは叫び、現れたカイロ市内の地図を指差した。狙撃手の場所がバツ印で示されている。

「行こう、承太郎」

 花京院がそう行って承太郎に先んじて路地へと入り込んだ。障害物の多いそこを通って女へと接近する。承太郎はそれを走りながら追う。

「花京院! 平気なのか」
「あぁ、それに、あの人は……」

 そう言う二人の背後、砂を切り裂いて閃光が走った。熱風が背中を焦がし、二人は思わず仲間の安否を振り返る。

「行け!」

 アヴドゥルはそう叫んだ。砂の奥側で炎を揺らめかせて、まるで人がいるように見せていた。それを見て取った二人は一気に走る速度を上げる。
 今の一射で、狙撃手は最初の位置から動いていないことが分かった。だから、陽動を任せていくべきだ。

「承太郎! こんなこと言うのは、場違いかも知れないが」

 隣を走る花京院が息継ぎの合間に叫ぶ。

「僕は彼女を、説得したい」

 承太郎は帽子の下、僅かに目を見開いて花京院を見た。
 この女狙撃手は今まで会った中でもとびきりの攻撃力を持ったスタンド使いだ。それを相手取って説得というのは無謀とも思えた。

「承太郎、お願いだ」

 だが、そう言う花京院の視線は真剣なものだった。

「分かった」

 承太郎は頷いた。ありがとう、という花京院の声を聞きながらビルの階段を駆け登っていく。
 この屋上に女はいるのだ。
 だからこそ、承太郎と花京院は一気に屋上に踏み込んだ。あくまで用意する隙を与えない。
 屋上の縁にいた女がはっとして、身体をこちらへと反転させた。彼女のスタンドであろう尼僧もその動きに合わせて空を滑った。
 承太郎と花京院の二人もスタンドを出して身構える。
 女の瞳が花京院を見た。瞬間、薄い笑みを描いていた口元が歪む。
 花京院がスタンドを消して、彼女へと一歩歩み寄った。その両手は肩の位置まであげられている。抵抗の意思がない、として花京院は女を見つめた。
 承太郎はどうするべきか、と表情には出さずに思考を巡らせる。
 白く凍てついた煙を上げる女の周囲。一見した時はレーザーの熱かと思っていたが、女の息が白く濁っていることから冷気だと分かった。
 女の厚着から見るとそれはスタンド能力の余波のようなものに見えた。例えば《星の白金》の視覚が鋭敏ゆえに夜にちらつく明かりが苦手になるような。
 そして撃ってこない、ということは女は躊躇っていた。花京院が知り合いなのか、それとももっと合理的な理由かは分からない。
 承太郎がそう考える中、花京院はもう一歩踏み出した。

「――僕を、覚えていますか」

 彼はそう言って、女を見た。女はどうしたらよいか分からない、とまるで迷い子のような表情を覗かせる。その頬や鼻は寒さで赤らんでいた。

「覚えて、いるんですね」

 花京院はそう言って、女へと距離を詰めた。




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