テディベアを抱えて、隣で少女は寝入っていた。
 子供向けの映画を二人で観ていたが彼女はすっかり寝ている。
 机の上では、はちみつ入りのホットミルクが冷えきっている。
 こちらに体重を委ねきっている体温が心地良い。子どもの体温というのはこんなに熱っぽかったか、と思いながら穏やかな顔を見る。
 睫毛の陰影が深く頬にかかり、さらさらとした髪がうなじで光っていた。
 テレビの音量を絞り、スタッフロールが流れ切るまではこのままでも大丈夫だろう、として流れるアニメーションを見る。
 プリンセスがプリンスと出会って、恋に落ちる話だ。
 他愛のない童話だ、と思いつつ、寝息に耳を立てる。規則的なそれはよく寝ていることを示していた。

「んん……」

 レイチェルが呻き、テディベアを抱く。少し寒そうだった。
 ……このままでは風邪をひくかもしれない。
 そう判断して、起こすよりも、と彼女を抱き上げた。彼女は薄っすらと目を開けて、ぎゅっとしがみついてくる。

「んー……、おじさま……?」
「ベッドに行くよ、レイチェル」
「んう……」

 ダニエルはぽんぽんと背を叩き、寝室に歩いて行く。
 まだ家具類を揃えていないから、必然的にソファで寝ることになるな、と覚悟を決めつつレイチェルを寝台に横たえた。
 レイチェルはぼんやりとした目で見上げてから、

「おじさま……ねんねよ?」

 ぐい、と容赦なく彼の髪を掴んだ。狼狽と痛みを訴える声が上がるがそのまま首に腕を絡めて目を閉じてしまう。
 しばし、そのままだったがやがてダニエルの身体が諦めたように脱力した。無理に抵抗するほうが疲れることに気がついた。
 そういえばテレビを消し忘れている。場違いなことを思いながらも少女を潰さないようにそっと、その横に寝転んだ。
 寝入り端の温かさがすぐ隣にある。
 ダニエルは気が付かれないように溜め息を吐いた。
 ……明日にでも寝台を買おう。
 僅かにひりひりとする頭皮を撫でながら、決意をする。
 今日だけ、今日だけ、という言い訳を重ねる辺り、自分でもどうしようもない。
 あぁ……ホットミルクも洗わずにそのままだった。
 育児の本を買うべきだろうか、と彼は悩みつつ、目を閉じる。
 もう少ししてから、ダニエルは少女の寝相の悪さを思い知ることになる。




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