九月二十三日

 あらためて自己しょうかいしよう、と彼はいった。
 ちいさなレストランでわたしは彼とむかいあっている。好きなものをたのんでいい、といわれたから、お母さんがダメっていうホットココアをたのんでいた。

「――ダニエル、ダニエル・J・ダービー。それが私の名前だ」

 そのとき、てんいんさんがホットココアをはこんでくれる。わたしがカップに手をのばそうとすると、彼がひょいともってしまった。
 先に名前、といわれてわたしも自己しょうかいする。

「わたしはレイチェル。……おじちゃん、ダニエルっていうのね。なんてよべばいいかしら?」
「好きなように呼んでくれて構わないよ、レディー」

 彼は笑いながら、ホットココアをくれる。おいしそうだ。

「あちっ」
「ほら、ちゃんとふーふーしてから飲みなさい」
「んん……。ふー……」

 おじさまが笑っていっしょにふーふーしてくれた。

「さめたかしら?」
「ゆっくり飲みなさい」
「うん」

 そっとのむ。ちょっとあつかったけど、あまくておいしい。

「……わたし、レディーだから、おじさまってよびたいわ。いい?」
「ああ、勿論だとも」
 おじさまがわたしの頭を撫でる。口についたココアのあわをそっとふいてくれた。
「おじさま……、わたし、これからどこに行くの? お父さんとお母さん、たぶんがっかりするわ」

 彼はとってもやさしく笑う。

「そんな心配をする必要はもうないよ」
「そうなの?」
「あぁ。レイチェル?」
「なぁに? おじさま」
「私と一緒に暮らさないかい?」

 彼はかがんで、わたしと目を合わせた。そのお目目にうそはない。

「テディベアかってくれる?」
「君が欲しいなら何個でも」
「ほんとうっ?」
「勿論さ、さ、おいで、レイチェル」
「うん」

 わたしはホットココアをもちながら、おじさまの手をとった。
 あくしゅするように、ちかうように。
 わたしとおじさまは手をにぎった。




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