r | ナノ





※現代





















天気予報はまた外れ、傘を忘れた俺は雨に打たれるしかない。そして、ああ、またか。もう見慣れた。分かっているのに俺はその後ろ姿を、性懲りも無く見続ける。自分の存在に気付かれたらどうなるか、気付かれたくないような気付かれたいような、否気付かれたくない。きっと俺を見ても彼はまたあの笑顔で何事も無いかの如くに振る舞うに違いない、実際何事も無いのだ彼にとっては。彼には当たり前なのだこれが。

隣りの女はびっくりする位別嬪さんだった。俺だったら絶対正面から目なんか合わせられない。彼の連れる女はいつも絶対別嬪で、それでも見る度に違う人だった。あんな美人を抱くというのはどんな気分なんだろうか、そもそも女性経験の無い俺には皆目見当つかない。羨ましい、妬ましい、煮え切らない俺の感情がジワジワと腹の底からせり上がる。そんなに女好きならそいつの所に行けば良い、俺なんて捨てて余所に行ってしまえば良いじゃないか。早く解放して欲しい、俺にどうしろって言うんだ。

今日も来ないんだろうな、そう言えばもう一か月は来ていない。俺の部屋は暗くて狭くて冷たくて、彼が来る様になるまではそんな事無かったのに、恐ろしかった。いよいよお別れという事なのだろう、まあいつかこうなるとは思ってたけど。あの人は結婚でも何でも直ぐに幸せになれるだろうが俺は違う。もう無理な気がした。あの人が居ないと俺は一人だった。情けない、涙が出そうだ。

「傘も差さずに出掛けてたのか」

玄関にぼうっと座り込んだままの俺の頭上から降って来た声は、間違いなくあの人のものだ。相変わらずノックも無しに合鍵で堂々と進入して来る。見上げた彼は例の如く爽やかな笑顔で、その手には傘があった。あの女と二人で入っていた傘。俺は問い掛けに応じなかった、応じれなかった。だが彼は勿論気にしない。腕を掴んで無理矢理立たせて、よし今日は風呂場かな、とは何とも身勝手な話では無いか。

それでも俺は黙って従う。俺は女が羨ましく、妬ましかったのだ。ざあざあと雨の音が正常な世界とこの部屋とを遮断する。








(100422)

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -