小説 | ナノ



 
坂高


殺し屋的な現代パロっぽいなんか変な裏社会設定。









「どうしようもないき、」

「っ、ぐ…ぅ、!」

「おイタが過ぎたぜよ、高杉。」

「…がは、っ!、さ、かもとぉ!!」


高杉はもう左腕も使えないようだった。彼のトレードマークである左目は、きっと彼をたくさん苦しめてきたのだろう。彼の左側はもう絶望なのだ。だからと言って右側に希望を掴んでいるわけでは、決してなかった。鳩尾を強く蹴られたせいで逆流する感覚に出たのは汚い血で、口の中に広がる血の匂いが高杉の吐き気を誘った。酒ばかり飲む彼は初めて会った時より随分と弱くなっていた。いつだったが、高杉が坂本に渡した銃が、よもや彼を貫くとは誰が予期したのだろうか。いや、この銃を高杉が坂本に渡った時、この銃の使い道は既に決まっていたのかもしれない。

「わしはおんしを気に入ってたぜよ。」

「…げ、ほ…!ぐ、…ほざけ…っ!」

「…すまんのぅ、高杉、…」


地に伏せる高杉の前にしゃがみこんで顎を銃で持ち上げる。銃口が彼に食い込んだ。坂本は自分の口角が上がっていることを自覚した。あぁ、そうかきっと自分は彼を拾った時から、彼と共に仕事をすると決まった時から、きっとこの引き金を引く時を待っていたのかもしれない。

この男に会うまでは自分は人間に執着したことなんて無かった。愛する女は多くいたし、女の暖かさは大好きであったがしょせんそれは肉体的な話だったように思う。
冷たいコンクリートには高杉の血痕があった。高杉の苦しげな息遣いがこの空間に響いた。不謹慎ではあるが興奮した。
そういえば彼が自分の元から離れて行ったのも高杉に対するこの奇妙な(愛情とも嫉妬とも依存とも取れる)感情を(無意識に)ぶつけてしまっていたのかもしれない、坂本は苦しげな高杉の顔を見つめながらそう思った。

「ぐ、っ…!は、はぁ、」

「、…」

銃をさらに強く押し当てる。高杉が唾を飲み込んだ。ゴクリと喉が鳴った。それが合図であるかのように坂本がにやりと笑う。

「…ーっ!?」

高杉が目を見開いた。高杉の体がピクリと震える。銃口は高杉に触れたまま、…そのまま


「…、っ、! て、めぇ…!」

「…さよなら、高杉」


パァン




























、と渇いた音の後にチャリンと弾が落ちた。坂本が笑みを浮かべながら深く息をついた。綺麗な赤が、コンクリートに、広が…、らない?

きつく目を瞑っていた高杉がおそるおそる右目を開いた。そこにはさっきまでの坂本ではなく、いつものようににこにこと笑っている彼がいた。

「ぶっ、!驚いたかぁ!?高杉!傑作じゃあ!アッハッハ!!」

「…は?」

「アーッハッハ!!ほれぇ!おっきしぃや?」


坂本は楽しそうにそう言って右手を差し出した。高杉は訳が分からなく混乱する頭をフル回転させるが、全く追いつかない。動かない高杉の右手を坂本が引き寄せた。引っ張られてされるがまま立ち上がる。左腕がひどく痛んで顔を歪めた。

訳が分からない、そんな表情で自分より幾分か高い坂本を見上げた。すると坂本はまた楽しそうに声を上げて笑った。


「アッハッハ!!なんじゃぁそん顔!可愛いのう!」

そう言って高杉を引き寄せた。

「今回だけじゃ、高杉。次は無いと思え?」

「…、な…!?」

「わかっちゅうぜよ。じゃが今回はおんしのミスじゃき。わざとじゃないにしてもあかんこっちゃぁ?」

「…ぐ、」

「高杉、?」

「…。」

「反省しちゅう?」

「…、」

「んー、こりぁちーくと教育しにゃあならんかの?」

「…は?」

「お仕置きじゃにゃあー?」


相変わらず嬉しそうに笑う坂本と、その坂本が発した言葉に血の気の引くような顔をする高杉。

「すぐにお持ち帰りしたい所じゃがぁ、まずは治療せにゃならんちや。ほれ、行くぜよ。」

「…ぅ、…じ、事務所…、行くの か…、…?」

「金時もヅラも心配しちょうよ?」

「…」

「高杉、」

「…ち、」

坂本がにこりと笑った。高杉はバツが悪そうに顔を背ける。左腕からは血が流れて鈍い痛みは消えなかった。しかし結果的に俺は生きているらしい、と高杉は思った。今回のことは本当にやってしまったと思ったのだ。取り繕う暇もなく追い詰められたと思ったら、何やらこいつらが上手くやってくれたようだった。それにしても最終的に冗談でした、と終わらせるなら俺をこんなにボロボロにする必要はあったのだろうか、と高杉は思った。しかし自分を軽々と支えて歩くこの男の腹の中は真っ黒だったことを思い出す。事務所に向かう車中で、奴らのことを考えた。口うるさく言われるであろうことを考えると、反論する気にもならなかった。それが終わったとしても隣で車を運転するこの男のいう教育とやらが待っているわけで、ともかくそれが恐ろしかった。こいつは先に述べたように容赦のない(あらゆる意味で)男なわけで、無意識に溜め息が漏れた。

「…どうかしたがか?高杉?」

「…別に、」

集団に属したりすることは自分には合わないことは充分自覚しているつもりなのだが、こいつらがいるこの環境に、慣れ親しんでしまった自分がいることも、今改めて自覚した。なさねばならないことがあと少し、残っているらしい。面倒だ、しかしそれもまた、一興。

















裏社会的な仕事の中でヘマした高杉と、坂本さんの話。



もじゃもじゃ企画提出