遠ざかる日々
田舎の電車は夕方でもがらんとしている。
窓から流れる景色は何年経っても変わらない。
夕暮れの赤を見ると悲しくなる。
あいつと歩いた帰り道を思い出してしまうから。
雨あがりのあとの匂いが苦手だ。
あいつと見た虹を探してしまうから。
あいつとの思い出はあたしを離さない。それほどまでにあいつはあたしの毎日に、景色に、溶け込んでいた。
「もう、苦しいよ」
濾過して、切り取って、無くしてしまいたい。何度も思った。でも今は、この苦しみさえも愛しいから、ずっと忘れないでいたい。
あたし、これまでたくさん辛いことあったけど、あんたがいなくなったことが一番苦しいの。どう責任とってくれるの?
「お姉ちゃん、苦しいの?」
目の前にいる小学生。赤いランドセルはやけに大きく見える。
「ん、大切な人がいなくなっちゃってね」
「わたしも一緒に探してあげようか?その人のお名前は?」
「うん、あのね、お姉ちゃん忘れちゃったの」
小学生の女の子は、不思議そうにあたしを見る。なんだか、あいつが隣にいた昔のあたしに見られているようだ。
「忘れちゃったの?名前」
「そうだよ。それから顔も声も喋り方も癖も。ぜんぶぜんぶ、夜が来る度に少しずつなくしていくの。」
ねえ、他のどんなところにあいつは溶け込んでいるの。
明日になればあたしの中にあいつの何が残って、何が消えているの。
夕暮れ空に問い掛ける。
返事は返ってこない。
ただただ夕暮れ空は夜を何度も運んでくるのだ。
遠ざかる日々
どうして神様はあたしにこんな病を与えたの。
BGM/glow