「天使の梯子はね、たくさんの条件が重なりあって見えるもんなんだよ」
「ふーん」
「一つの現象にはいろんな要素とか原因が重なりあっているわけよ」
「すごいよなあ」
「人間の出会いとか感情もきっと同じだと思うのよね、わたし」
「ん?」
「なーんて、卒業前だから、ちとオセンチになっている坂本でしたーでへへー」
「…なんかあった?」
「んーん、なんだか卒業寂しいなって思っただけ。みんな、あんまり来ないし」
「2人ぼっちじゃダメかもだけどさ、俺いるじゃん」

坂本の動きが止まった
あ、照れてる

「でも俺もそんなこと考える時ある。寂しいとかさ」
「…最近そういうのが多くてさ、な…んかもう…どうしようもなく悲しくなる。わけもなく悲しい、ってあるけど、たぶんたくさんの理由が絡み合ってんだよね。」

頭のなか、ぐるぐる
坂本の状態。
いつも元気な坂本が弱い部分を見せた。

「そういう時はさ、泣いたらいいよ」


緩んだ涙腺がついに崩壊したのか、坂本は泣いた。
涙は止まらない様子で、でも静かに。
こっちを見ない。泣いてる姿を見られたくないのだろう。俺はずっと窓の外を見ていた。

もう、天使の梯子は消えていた。

夕暮れの赤を2人机いっこぶんを空けて並んでみた。

「綺麗やね」
「そやなぁ」


一生、一生忘れない。





網膜シャッター




卒業式、
坂本は俺に向かって「またね」と笑って言った。
俺は、「すきだ」という代わりに、シャッターを押した。






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