いち
シャッター音がすきだ。
空間を切り取ることがすきだ。
そこだけを切り取って自分のものにする。
一種の独占欲なのかもしれない。
吉田隆、趣味は写真を撮ること。
高校生活も残り少し、まだ受験は終わっていない。
自由登校になったからか、教室にいる奴は少ない。今日に至っては、俺とアイツしかいない。
勉強に飽きたというか、すでに嫌気の指した俺は机に頭をのせ、外の景色を見ていた。
空は高く、雲は低い。
「吉田ァー」
アイツが声をかけてきた。アイツとは、坂本菜月である。
「んー?」
「数学わからーん」
「どれ?」
「これ〜!2!」
ゆるゆると坂本が近付いてくる。後ろに振り返って机越し。顔が近い。手が触れそうだ。心臓の音が速足になる。
きっと俺が坂本をすきなせいだ。
「〜〜わかったああ!」
「なんかいちいち腹立つ問題だな」
「ね〜、ありがと」
「いえいえ」
「ちょっときゅーけいじゃあ!」
「おい、俺の机」
「あー、疲れた」
聞いちゃいない。
「あ、天使の梯子」
「天使の梯子?」
「ほら、空みて」
ふいと見ると、雲の切れ間から光が漏れ、壁のようになっている光景。
俺も何回も見たことがある。それから、すきだと思ったから、綺麗だと思ったから、何回もシャッターを押した。
まあ名称は知らなかったけど。
「カーテンのことか」
「カーテン?」
「そう見えるから、勝手に呼んでた」
「ふふ、なるほど」
「写真もたくさん撮ったなあ」
「吉田、カメラ好きやもんね」
「おう」
「今日も持ってんの?カメラ、」
「当たり前、肌身離さず」
当たり前かぁと坂本は笑いながら呟いた。