溶け込んでいく束縛
私にとって貴方がすべて。きっと、貴方にとってもあたしがすべて。
そんな風に世界は回っているのだ。
21:30
先生の自宅にて
かすかに香るのは先生がいつもつけている香水の匂い。
「…せんせー?」
呼んでも先生は私に背を向けている。先生が不安定な証拠だ。私は、先生にそっと近付いて、ぎゅっと抱きしめる。先生の頭が私の腕にすっぽり収まる。
「先生、なんかあった?」
「ん―…」
曖昧に返事をしつつ、先生はちょっとだけ私にもたれる。体重を預けてくれる。
この重みが私の存在価値だと思った。必要としてくれている人がいると安心できるのだ。
「ん―、じゃわかんないよ」
「じゃあ、いい」
「なにそれ―。せっかく人が聞いてあげてんのに!」
「ぜってぇ、ひかれる」
「え、なに?むしろ聞きたい……というか、言わなかったらくすぐる…よ…え?」
先生の頭から脇の辺りへと手の位置を変えた瞬間、――立場逆転。先生は私の腕を掴んでひっくり返し、私をベッドに押し倒した。先生の少し骨っぽい長い腕が私の顔のすぐ横にある。逃げることはできない。恋人なんだから逃げる必要はないけど、
「せ、先生?」
「知りたいか?なにがあったか」
「え?や、知りたいけど…」
「逃げるなよ?」
「……先生は私が逃げたって、逃がしてくれないんでしょう?」
ちょっと強気で言ってみると、先生は拍子抜けしたような顔をした。そして「よく知ってるな」と不敵に笑った。
結局のところ、押し倒されてる状況に相変わりはない。心臓が踊るのを抑えつつ話を続ける。
「で、何があったの?」
「今日、学校で男子生徒と楽しそうに話してたな」
「?今日そんなこと私してないけど?」
「放課後のチャリ置場」
「…?あ、!あれか!見てたの?」
「丁度見えたんだ」
「あれは私の髪に葉っぱついてたのをとってくれ「そんなのはどうだっていい」
私の話を遮って、先生が低い声で言う。その声は私の頭をぐるぐる回り、支配する。
「他の男に触られるな」
溶け込んでいく束縛
先生が私の耳に噛み付いた。熱い痛みが走る。
こんなのは依存だとか、束縛だとか、って分かっててもどんどん私はその世界に溺れていくのだ。