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atro-ala

novel>PH>紫色の熱


冷たい部屋で、レイムはソファー にぐったりと背中を預けた。膝には毛布が気休め程度に掛かっていて、防げる寒さは少量だと見える。

珍しく眼鏡を外して、目を瞑った。今日はこのまま寝ていても良いだろうか。甘い考えだが、すっかり疲れの溜まった身体はろくに動きやしない。暖房をつけるのすらだるいのだから、この微弱な寒さが積もりに積もって凍傷を起こしても不思議ではないだろう。
扉が開く音が聞こえ、再び仕事かと徐に顔を上げた。いい 加減休暇が欲しい所だ。霞む目で来客を見つめ、その輪郭を捉える。

「レイムさん」

不意に名を呼ばれ、聞き覚えのある声だと目を擦った。手当たり次第に眼鏡の方へ手を伸ばし、金属特有の冷たさに耐えながらそれを掛ける。それから目を凝らしてよく見てみれば、口元に笑みを携えたザークシーズが 珍しく扉から入ってきている所だった。何だと問えばずんずんと眼前まで迫り来る。何事だと力無く問えば、 妖しくにっこりと笑ってレイムの腕を掴みながらただ一言。

「ちょっと来て下さい」

問い返す間もなく腕を引っ張られ、ソファーから立ち上がった。まるで溜まりに溜まった仕事を目の前にした 時のような倦怠感が襲い、抵抗を忘れてしまう。仕方がないからそのまま連行される事にした。
どこに行くのだろうかとぼんやり考えながら、流れていく景色を視界の隅に追いやりながら重い足を懸命に動かす。 目の前の男はこんなにも元気そうだというのに、こちらの働き続けた体はもう限界だと言わんばかりに立ち止まろうとしてどうしようもない。声を掛けようと口を開いても出て来るのは溜め息ばかりだ。
そんな考えに没頭していれば、突如景気が止まった。手を引く彼も立ち止まる。不意に冷たい風が全身を襲って、野外 だと理解すると同時にぞわりと身体が震えた。ふわりと煙たい物が流れてくる。

「着きましたよ」

先程までは白髪しか見えなかったザークシーズの柔らかい紅の瞳がレイムを優しく見つめている。彼がコートを身に付けていることに気が付いて、目角を立てた。

「…急にこんな所に連れてくるなんて、何を考えてるんだ」

叱るように言ってから、げほげほと咳き込み、自分が酷く震 えている事に気付く。ザークシーズは一瞬だけ心配そうに眉をひそめたが、すぐにくつくつと可笑しそうに笑って少し離れた焚き火へと近付いてしゃがみ込んだ。手には軍手がはめられている。何をしているのかと覗き込めば、どうやら焼き芋のようだ。すぐさま立ち上がって、ほら、寒いんでしょう、と湯気の立つ紫色の芋 を新聞紙で包んで渡される。出来立てと思われるそれを受け取って、にこにこと笑う彼を見遣った。どうやら彼の分はないらしく、焚き火も既に砂によって消されている。一個だけ余ったから譲っているのか、レイムの為だけに作ったのか。そんな思案にくれていると、不意にザークシーズの腹が鳴った。

「った く…お前も食え」

何事もなかったかのように笑う彼に熱々のそれを新聞紙ごと半分に千切って差し出してみる。さすれば目を見張るものだから押し付けるように差し出せば、春風のように笑われた。

「君の為に頑張ってみたのに」

ザークシーズは、疲れてたみたいだから、と言いながらレイムの差し出す焼き芋を軍手のまま受け取る。レイムは思わず見開いた目を隠した。気を使われていたのだろう。嗚呼、恥ずかしい。

寒さで赤らんだ鼻先にそっと手を触れ、焼き芋をかじる。口の中が熱くなって、ただそれだけの筈なのに顔が無性に熱くなった。

「…ザクス」

冷たい風の中で、 熱を持った声が静かに通り過ぎた。


紫色の熱
(中の方、 生焼けだぞ)
(え゛、本当ですカ)



相互記念としていただきました。焼き芋が食べたかったからとかそんな理由でリクエストしましたごめんなさい、でも焼き芋たべたい。
相互有り難う御座いました、これからもよろしくお願いします!







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