御題 | ナノ
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“すまん、急用が出来た”

木吉専用の着信音が持ってきたのは、そんな短い文のメールだった。
久しぶりに時間が合って会えると思った矢先のことで、少しばかりムカついた。とは言え、自分を優先しろだとかそんなことは言えるはずもない。そんなの、女々しいしウザいし気持ち悪いし、全く自分らしくない。
花宮は悴んだ手を動かして、“あっそ”と素っ気ない文章を本文に打ち込んだ。よっぽどの急用だったのか前に交わしたメールのタイトルに“Re”が加えられたそれを全消去し、“No Title”にしてから送信する。ダッフルコートのポケットに震える手とケータイとを突っ込んで、ベンチから立ち上がった。
本屋にでも行って適当に立ち読みして帰ろうか、そんなことをぼんやりと思った刹那、悴んだ手が鈍く振動を伝えてきた。アップテンポのバイブレーションとそれに合っていないゆったりとした曲が耳を掠める。あまり聞かないこれが何を示すか、花宮は分かっている。だからこそケータイをポケットから出すのを幾らか悩んでから、結局通話ボタンを押すのだ。


その声ひとつで許してしまう
(……もしもし)
(花宮か!?悪い、急用が出来てだな、)
(知ってるよ、バァカ)

20120212







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