「おかえり、花宮」
テストで帰り早くて、だから迎えにきた。
と、雪が降るほど寒いこの季節に場違いな程の笑みを顔面に張り付けて霧崎第一高校の校門前に突っ立っていた男は言った。
「…………」
「あれ、いつものは言わないのか?」
いつも通り部活を終えた、だから今は20時は過ぎている。と花宮の頭は冷静に状況を処理する。
ワイシャツにブレザーの制服にカシミヤのマフラーという出で立ちで、汗が冷えてきたとはいえ校舎から出て数分の花宮は既に鳥肌をたたせているというのに、防寒具を着けているとはいえ午前中には終わるであろうテストから今の今まで外に居ればどうなるかなど、考えたくもない。
「……どこまで馬鹿なんだよ」
「ん?心配してくれてるのか?」
嬉しいなーと間抜けな笑顔を振り撒きながら、木吉は馬鹿に大きい手を差し出してくる。
「……なんだよ」
「帰ろう。寒いしさ」
花宮は数瞬迷って、結局右手を出した。自分より冷たいはずの手は、どういうわけかとても温かい。
「花宮、手冷たいな」
大きな大きな手のひらに右手を握り締められて、痛いよバァカとマフラーに口元を埋めながら罵ってみる。木吉の左手が一瞬だけ離れて、指と指を絡ませた。
「こうやって花宮の手を握って帰って、家につく頃にはさ」
同じ体温になってればいいな
(そしたらきっと)
(離れられなくなるから)
木花にするか高緑にするか日月にするかでやたらに悩んだ。ご要望ありましたら別バージョンを書いてみるのも悪くないですね。
20111030