短編 | ナノ
atro-ala

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未来はどこですか、神様。


*伊月のキャラソンを聞いてからお読みになることをおすすめします。
*死ネタ



―いつか何もかもが思い出話になって
(あんまり実感沸かないけどね、まだ)


走る、走る。綺麗に均されたコンクリートをスニーカーで踏みつけて。息を吐けば白く見えるこの季節に制服のズボンと白のワイシャツだけでは流石に寒いはずなのだけれど、そんなことも気にならないぐらいに走った。ちなみに上着は自室の床に適当に落ちている。


―懐かしいオレ達がいるね
(その頃にはオジサンだな。コガに髭あって長老猫みたいになってたらどうしよ。日向は禿げてたりして)


ことが起こったのは帰ってすぐだった。着替えようとして上着を脱いでいたらケータイが鳴って、ディスプレイを見てみればついさっき分かれた伊月の名前。

(なんだ?)

通話のボタンを押して、耳にケータイを当てる。上着から腕を脱ぎながら、どうした?と今更もしもしなんて言う仲でもないからそう問うと、返ってきた声は全然知らない声で。

「……どちら様ですか?」

意味は分からないが伊月のケータイからかかってくるのだから伊月の知り合いだと思って取り合えず聞いてみる。が、返ってきた返事はと言えば。

『履歴の一番上に残っていたので御連絡させていただきました。今このケータイの持ち主の方が事故に合われまして―…』


―嬉しかったことばかりじゃなくたって
(スランプも喧嘩も木吉の怪我も辛かったよな。嬉しかったことは、バスケと日向と出会えたこと。)


気付けば、親に何も告げずただそのまま家を飛び出して病院に向かって走っていた。伊月の家に電話をかけて大雑把な現状と病院の場所だけ連絡する。それだけのことをしたら何だかもうそれ以上頭が回らなくて、乱暴にケータイ閉じてズボンのポケットに突っ込み、あとはただただひたすら走った。

『スピードオーバーのトラックが歩道に突っ込んで、それで…』

悪い予感なんて、してない。してない!


―他には考えられない
(寧ろバスケ以外になんかしてる?あ、授業か。あとは、恋愛かな)


病院に着いて、受付で伊月について聞く。十五分前に救急搬送されて、今は緊急治療室にいるとのことだった。
緊急治療室の場所を聞き、病院一階奥まで走る。やけに広いその病院には人があまりいない―一階は緊急患者の受付のみなのだろうか。足音が響くのを煩わしく思いながら、教えられた場所まで走る。のに、治療中のランプはついていなくて。

(こういうのって、赤いランプついてるんじゃないのか)

よくは知らないが、ドラマでよく見るのは赤いランプだ。
兎にも角にも扉の前に来てみるけれど、やっぱり赤いランプはついていない。どういうことだろうかと辺りを見回してみると、走ってくる看護婦の姿があった。

「伊月俊くんのお知り合いの方ですか」

問われて、はい、と頷いた。すると看護婦は此方ですと丁寧に言って、階段を降りていく。治療はもう終わったのだろうか。


―たったひとつの日々だった
(みんなとバスケして、日向と一緒にいられるなんて幸せだよな)


通された部屋は、寒かった。そして白くて、花が生けてあった。
部屋の真ん中で眠っていた伊月にそっと近づいてその顔をみれば、馬鹿みたいに綺麗な顔をして眠っている。いつも通り綺麗な黒髪で、白い肌で。綺麗な瞳だけは見えないが、目が覚めたら黒い宝石を輝かせてまた面白くもないダジャレを言うに違いないような。
なのにどうして、そんなに泣いてるんですか。おばさん、彩さん、舞ちゃん。


―そう思える気がする
(今だってそう思ってるよ?)


伊月の頬にそっと触れる。相変わらず冷たいけれど、ほんの少し温かいし柔らかい。さらさらの黒い髪は白い蛍光灯を反射して淡く輝いていて。

「……伊月」

制服で寝んなよダァホ。シワになんだろうが。
そうやって言うのに、彼は起きなかった。胸の辺りまで白い布を被ったまま、微動だにしない。さっき分かれたままの、そのままの伊月だと言うのに。

「俊、なぁ。起きろよ」

また明日な、そう言っただろ。
名前を呼んだら耳まで真っ赤にするくせに、なんで今はどんどん青白くなっていくんだ。
理解できなくて、したくなくて、肩をつかんで揺り動かすのに、伊月は力なくただされるがままに揺れた。
髪が白の上で散らばって、長い前髪がさらりと目にかかって。それを指先でどけてやると、伊月の頭がかくりと横を向いた。
その反動で伊月の頬を伝う、涙。

「……なんで、なんでだよ……また明日って、ずっと一緒にいるって、約束しただろうが!!」

―今のずっと未来で
(未来でも、日向の隣にいられますように。)



未来はどこですか、神様。
(あったはずなのに無くしたのでしょうか)
(探せば見つかるのですか。ねぇ、)

20121028








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