短編 | ナノ
atro-ala

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当たり前が怖かった


*笠黄のつもりで書いてたのでそう見えなくもない
*黄瀬メイン
*黄瀬が少し病み気味



センパイ、センパイ。
俺、バスケが分からなくなりました。

センパイは、ボールを持ったままぽかんとして俺を見た。うわぁセンパイ、すんげーマヌケ面ッスよ。そう笑っていってみたけれど、どういう訳だか飛び蹴りは飛んで来ない。

どうしたんスか、センパイらしくもない。

そりゃあ、俺のセリフだ。

そうして眉間のとこをしわしわにしてボールをつきながら俺の方まで来たかと思うと、力強く俺の手首をつかんで無遠慮に引っ張る。それはセンパイらしいけれどやっぱり痛くて、痛いっスよセンパイ、ってそう言ったら、返事がない。やっぱりセンパイらしくない。

センパイ、センパイ。何処行くんスか

何処にも。ステージに座るだけだ。

いっそ連れ出してほしかったけれど、逃げるなんてさせない辺りはやっぱりセンパイらしい。でも練習中に練習を止めさせるのはセンパイらしくない。今日のセンパイはなんだか変だ。
シュート練習をする部員の邪魔にならないようにコートの端を足早に歩いて、二人してステージに座る。足をぶらぶらさせてぼうっと練習風景を眺めてみた。うーん、やっぱわかんねぇっス。

センパイ、俺ね、バスケが分からなくなったんス。

分からないって、何が。

バスケが、っスよ。

言いながら、正しくは違うな、と思って、でも言い直さなかった。センパイなら分かってくれると、確証のない確信があった。
でも口は何やら勝手にだらだらと内心を漏らしていたようで。

センパイ、俺は、バスケをしてるんスかね。
だってセンパイ、そうでしょう?俺がしてるのはマネゴトなんスもん。
俺自身の技なんて無いわけで、マネゴトはやっぱりマネゴトなわけで、なんかそれってマネられた人の努力を一瞬で無いものにしちゃうんだなーとか思ったんス。そういうのって俺わかんないんスけど、ムカつくし絶望するわけで。
そうやって考えたらなんか、俺もキセキなんだなーって。ほら、緑間っちも青峰っちも戦えば相手が勝手に絶望していくわけじゃないスか。
キセキの世代ってね、センパイ。同じ年代で天才的なのが集まったって意味もそりゃああるんでしょうけど、俺に言わせりゃキセキ的なぐらい相手に絶望を与えられる世代なだけっスわ。なんかそこまでいったら、バスケで誰かと戦ってるっていうより、バスケで誰かを打ちのめしてるだけみたいに思えてきて。負けるのは勿論嫌なんスけど、なんつーか、俺は相手も全力で楽しめる試合がしたいわけで、そんで、出来れば誰にもバスケをやめてほしくないんスよ。
分かります?センパイ。俺はマネゴトをしないと勝てないけど、マネゴトをしないで勝ちたいんス。

それだけだらだら口にしたら、頭にがっと手を乗せられて、押さえつけられた。その瞬間に足も着かないぐらい下に見えるフローリングに滴が落ちて、でもその滴もなんかボヤけてて、俺泣いてるんだ、とか他人事みたいに思ってみたり。おかしいのは俺の方だったらしい。

センパイ。俺はね、センパイ。
笠松センパイも森山センパイも小堀センパイも早川センパイも好きっス。だからセンパイ、俺はセンパイ達とバスケするのが怖い。

あぁ、そうだ。怖いんだ。俺はみんなとバスケをしていたいけれど、そうしたらみんな止めてくんじゃないかって、そんなことを思った。

バカじゃねぇの。

そしたらセンパイの声が聞こえて、俺はふと顔を上げて、センパイの大きな目とばっちりかち合った。

お前が入ったぐらいでバスケやめるぐらいならとっくに止めてるし、お前がいたから勝てた試合もある。お前は確かにキセキで、絶望させてバスケを奪ったこともあるかもしれねぇけど、それは相手がどうしたかの話であってお前は悪くねぇし、大体お前はもうウチのメンバーなんだから俺らとバスケするのが当たり前だろうが。

そうだろ、なあ?
センパイが誰かにそう言うから後ろを向いてみたら、いつの間にか森山センパイと小堀センパイと早川センパイがいて。

ウチのエースはバカで困るな。罰として女の子紹介しろよ?

とかなんとか言うのはぼやけてる見えるけど森山センパイに違いない。早川センパイも何か言ってきたけれど殆ど聞き取れなくて、笑い泣きながらわかんねぇっスって言ったら、なにをーぅ!とか言いながら突進されてステージから転げ落ちた。その上に森山センパイが降ってきて、小堀センパイが仲良いなぁとか頓珍漢なことを言いながら笠松センパイと笑ってて。

俺、海常はいってよかった。

なんか漠然とそう思って、でもそれが自分の中ですとんと落ち着いた。

これが、俺を支えてくれるセンパイ達です。


当たり前が怖かった
(はじめて出来たセンパイ達は)
(乱暴で女好きで馬鹿純粋で滑舌悪くて)
(優しくて便りになる人達でした。)


実力で軍を分けられる帝皇は学年とか関係なくて、高校入ってはじめて出来たセンパイ。楽しくて楽しくてずっと一緒にバスケをしていたいけれど、一緒にプレイしているうちに周りがどんどんいなくなっていく中学時代の恐怖を思い出して耐えられなくなった黄瀬でした。
笠黄の予定だったのに何処かで何か間違えたようです。

20121027








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