短編 | ナノ
atro-ala

novel>short 

終わらない終わりにて


*日向が少し変態くさい



『先生』というのは、多分『人間』ではないのだと思う。

『人間』の『先生』なんてきっとこの地球上、いやそれは規模があれだが、兎に角この日本内にはほんの一握りしかいないに違いない。
『先生』は『人間』ではなくて、『人間』みたいな固有名詞をもった『先生』という名の生物なんだ。きっと。


……なんてことを、日向はズボンの膝のところの布地に額の汗を吸わせながら思った。
そうしながら、やっぱり『先生』というのは『人間』外だと思う。

だってそうだろう、この制服の吸水力の無さと通気性の悪さを考えられないなんて。
その制服を着せて全校生徒900人以上と『先生』たちを熱籠り放題の体育館に詰め込んだ挙げ句に、夏休みの過ごし方だなんて高校生なめてんのかとしか言い様のない話その他諸々をだらだらだらだらと言い連ねるのだから、やっぱり『先生』は『人間』じゃない。
『人間』だったら学生時代に同じ想いをしたはずで、校長がこんなに意味の分からないことをうだうだと言うわけがない。制服のボタンを全部閉めろとかそんなこと言うわけがない。

熱中症の注意をするぐらいなら今すぐ制服のボタンを解放させてくれ今すぐ体育館から出してくれせめて扇風機ぐらいは回せ!


……と、日向は思っている。


日向は、汗をだらだらと流しながらふと顔を上げた。壇上では校長が意味の分からないことをまだ言っている。
そして、体育館の前方右側にかけられた大きなアナログ時計をちらりと見て、真剣に絶望した。始まってからそう時間は経っていない。どうせこの校長の挨拶が終わったって、まだ表彰式だとか生徒会の挨拶だとかがあるに違いなくて、終わりの見えない現状に真面目に嫌になった。
バスケをしている時の時間の経過はやたらに早く感じるというのに、それが始まるまでの時間の長さは本当に異常だ。

(まじでバカじゃねぇの……何分喋るんだあの校長)

滑舌悪くてなに言ってんのか分かんないしむしろあれ校長だよな?…校長?あ、そういや今年になんか変わったって言ってた気がす……いやそれ副校長か?

なんでもいいけどさっさと終わればいいのに、そう内心で愚痴りながらあげた頭を再び下げようとして、その刹那。

(ちょ、うおぉい!健全なる学生の中にえろいの混ざってんぞ!)

前の方に、伊月を見つけた。
体育座りの膝の上に顎を乗せて、ぼんやりと前の男の背中を視界にいれている。小さな汗の珠を浮かべつつ熱気にうっすらと頬を染め、熱い息を吐く。

(あれぐらい練習の時に見てんだろ、落ち着け!)

時々体育座りを解きシャツの首もとをぱたぱたさせて空気を送り込む、その時ちらりと見える首筋やら項に汗が流れるのが、また。

(お、落ち着けません…!)

ちがうのだ、練習の時とは。何がと言われると困るが、バスケをやる時のようなオーラではなくて、無自覚で無頓着で無防備で、つまりどちらかというと情事のときのような、

(ってなに考えてんだ!ちげぇ!たしかに今みたいなすっとぼけてる伊月を押し倒したらちょっと焦りながら赤くなって可愛いってちげぇよダァホ落ち着け俺!)

脳内で繰り広げられるアレコレに、体育館の暑さか妄想の熱さかはたまたこんなところでおっ勃ててしまう可能性への緊張かは分からないが兎に角それらが原因で余計に汗が出る。
何にしたってこのまま伊月を見ているのはあらゆる意味で危険だと判断して目を逸らそうとする、と。

ぴんっ

体育座りをした足のところで組まれていた腕が解かれて控えめに手が此方を向いたと思うと、伊月の指が、デコピンでもするかのように空気を弾いた。

(…………え…?)

何をしてるんだろうか、そう思った瞬間、伊月が本当に少しだけ首を捻ってちらりと此方を見た。きっと睨んでくる目、少しつり上がった眉。
しかし頬は、暑さだけでは説明がつかないような、綺麗な朱色。

(おま………っ!)

それはズリィんじゃねぇの!



終わらない終わりにて
(鷲の目で全部見えてるっての)
(日向のばーか!)


7月20日にめざましで一般的に今日が終業式って放送されていたので書いていたものの、書き上がったのは9月1日で学生さんは絶賛始業式状態です。気にしない。

20120901








 Index
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -