短編 | ナノ
atro-ala

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ハロー、恋心。


*ツイッター連載
*内容の都合上、顔文字や(笑)の表現があります。



どうこうした理由はない。ただ、話せば長くなるのでここは省略するが、たまたま自分と同じような目を持った他校のセンパイのメアドを入手したから、入手したからにはメールしようって、それだけ。

件名に『秀徳の高尾でっす(`∇´)』、本文に『たまたまメアド知っちゃったんで、良かったら俺のも知っててください☆ヽ(´▽`)/』とか、そんなことを書いた。
宮地サンにも最初同じようなこと書いたっけと思いながらベッドで月バスを広げること20分、ヴヴヴ、と鈍い振動を感じた。
適当に放っていたケータイがシーツの上で震えている。もしかしてもしかしたり?といまいちよく分からないことを思いながら、ありがちな二つ折りのケータイを慣れた手付きで開いた。ディスプレイの新着メールの文字にやっぱり!と意味もなく内心ガッツポーズをして、メールのボタンを押す。

内容はきわめてシンプル。
件名に『誠凛の伊月です』、本文に『初めまして、登録しといた。正直名前覚えられてただけでビックリなんだけど、よろしくな』。
ただのケータイに入ったフォントが映し出す文字の羅列が、どういうわけか伊月サンのメールだけはなんだか違うように見えた。性格が滲み出た、丁寧な感じ。そんなメールをもっとしてみたくて、でもここで終わりにしてしまったら永遠にメールなんてしない気がしたから、俺は必死に話題を探す。
と、ふと視界に過る月バス。開いたままのページは、“期待の新星誠凛高校に迫る!”だ。

わざわざ手に取って見るまでもない、返信が来るまでの20分黙々と読んでいたページ。“期待のルーキー”よりは少し小さい記事だけれど、“冷静沈着な司令塔”についてもかなりの量が書かれている。チームメイトとどうだとかPGとしてどうだとか、それから少しばかり容姿について。

俺はそれらの文を始めから頭で読み返して、再びボタンに指をかけた。
件名は『Re』を付加しただけ。本文は、『そういや月バス見たんすけど、伊月サン色々書かれてましたね!試合の時はあんま見てられないっすけど普通に見たらすんげカッコいくてちょいビックリしたっすわ(*^^*)』で、送信。
いきなりフレンドリー過ぎたかな、と流石に不安になって送信停止をしようとしたところで、送信しました、とそんな文字が見えた。すみません調子乗りました!とでも送るべきか、と送信しましたの文字を見つめながら思案していると、手の中でケータイが鈍く震える。
送信しましたのウィンドウの上に新着メールのウィンドウが出てきて、もしかして怒らせたかな、と一人若干焦りつつメールを開く。と、『試合の時は顔とかあんまり見てられないよな。カッコよくはないと思うけど、ありがと』。
あんまりにも素っ気ない文だったから、やっぱり怒らせたかな、と一人ケータイを見つめながらどうしたもんかと考えていると、なんだか違う気がした。なにか、しっくりこない。

(怒る…?というより、照れてる………照れてる?あ、それっぽい)

確信はなかったが間違っている気もせず、『まったまた、照れないでくださいよ』と送る。と、またもや早い返信で『照れるか!高尾のがカッコいいよ』なんて書かれていて、真ちゃんなら確実に全力の否定の意味になるであろうそれも、伊月サンのメールだとただの照れ隠しにしか見えなかった。
『俺なんか緑間に言わせりゃデコッパチなのだよ、ですから!伊月サンは確か綺麗な黒髪だったじゃないすか、目も綺麗だった気するっす』
『デコッパチか、言えてるかもな(笑)親譲りなんだ、ありがとな。』
それからもダラダラとそんなメールをやり取りしながら、あれ、と思った。
なんでこんなにうきうきメールやってんだろう。
他校の、男のセンパイに対して、綺麗とかかっこいいとか普通は言わないものだ。宮地サンに対してだってこんなこと言ったことないのに。(まああの人は天使の顔した悪魔だけど)。

『今さらっすけど、なんかすんません。綺麗とかあんま男に言うことじゃないすよね』

もしかしたら傷付けてるんじゃ、そんなことを思って書いた文を送ってみる。ただのメールだけれど感じられた伊月サンの優しさが、もしかしたら気を使ってくれているのかもしれない。

今度の返信は遅かった。寝ちゃったかなとかお風呂かなとか考えて、意味もなく新着メール問合せなんてしたりして。なんでこんなに返信求めてんだろ、俺ってこんなだっけ?伊月さんに対してだけ反応を気にしてばっかりだ。
そうしてやっぱ寝たんだなと思い出した頃、ようやく返信がきた。

『大丈夫。よく言われるし。
でもなんて言うか、高尾に言われると変な感じがする。文字だからってのもあるかもしれないけど、すっごい真面目に言われてる気がしてさ。
周りはなんていうか、ちょっとからかい含めて言ってくるから冗談っぽく返せるんだけど、高尾のは上手く返せないや』

俺はまた月バスの記事を見た。“冷静沈着の司令塔”は文字通り冷静沈着なはずで、それなのに今他校の年下の俺に対する返信で困っている。

(……うわ、なんか)

返信のスピードや反応が急に気になるようになって翻弄されているように見えて、実は向こうも翻弄されていたのだ。

(ナニコレ?なんか嬉しいとか、なんでだよ)

わかっているけど分かりたくないような。だってこれは異性に抱くものだ。大体相手は他校生でセンパイで男で、一緒に試合してもんじゃ店で遭遇しただけの、それだけの人なのに。

(…………バカか、俺は)

そんなの、どうでもいい。元より性別がどうとかで恋愛云々を気にする質でもない。

(やってみてから悩めばおっけ、っしょ)

そうだ、やってから考えればいい。この感情が恋愛かどうかも、そうだったとしてどうするのかも、今どうにか出来るわけがないのだから。

『伊月サン、今度オフいつですか?良かったら会いたいんすけど!』

人生楽しんだもん勝ち。俺はとりあえず進んでみることにした。


ハロー、恋心。



ツイッターで20ツイート分連載させていただきました。続編希望いただきましたので一応予定はしています。

20120830 執筆
20120901 加筆修正
20120901 掲載








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