短編 | ナノ
atro-ala

novel>short 

モット独占シテホシイ。




―ゴメンナサイ。



私はそれを君に伝えることはない。否、伝えられない。
私なんかを抱きしめてくれる大好きな君。癖がついているはずの黒髪、見つめてくれる綺麗な黄金の瞳、口付けをくれる形の良い唇。私にはもう、何一つ判別出来ない。
キスと包容からの体温と、すっかり慣れてしまった煙草の匂い、優しい口調。それだけが私に残された君を見つける手掛かりで。

「ギル、バートくん……」
「ん……?」

中に感じる熱が心地いい。大きな手が私の頬を撫でて去っていく。もっと触っていてほしい、君がここにいる事をもっと知らせてほしい。そんな我が儘。

「………ギルバート、くん…っ」
「……?」

行かないで、行かないで。中の熱が弾ければ君は私から離れてしまうのでしょう?
目を開いても見えない君の顔。こんなに近くにいるのに見つめ返せない黄金の目。ただ君の全てに触れていたい。結局全ては私のせい。過去に大罪を犯さなければ、君に出逢わずに済んだでしょう。私が視力を殆ど失うなんてしなければ、君を見つめて何時だって探し出せたでしょう。私のせいなのに、見えない君を縛り付けようとしている。なんて醜いのだろう。
ゴメンナサイ、ゴメンナサイ。私のせいなのに我が儘を押し付けて。それでもその言葉を君に伝えることはない。否、伝えられない。事実を知れば、優しい君は酷く傷付いてしまうだろうから。

「ギルバートくん……愛して、マス…」

私は酷い。事実を伝えないまま愛すると言って君を縛り付けている。

「あぁ……俺もだ」

いっそ私を捨ててくれればいい。優しい君は出来るわけないと知っているのに、そんな事を思ってみる。

私は、酷い人間。




モット独占シテホシイ。
(名前を呼ぶ事しか)
(君に縋る方法を知らない)











 Index
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -