短編 | ナノ
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暴言の裏側


*ツイッター連載まとめ



「宮地、お前いい加減にしないとスタメン外すぞ」

ほんの脅しのつもりだったのだ。あまりに過激な言葉を飛ばしすぎて後輩から距離をとられ過ぎるのをなんとかしようと、ただそれだけで。

「…………ぁ…」

まったまた、大坪のクセに轢くぞ!
そんなのが返ってくると思っていたのに、実際は。

「っ……!」

あまりの事に、冗談で軽く首を絞められていた高尾が絶句していた。まさか、まさかそんな泣きそうな顔をするなんて。

「……センパ、」
「っるせぇ、刺」

すぞ、と言おうとして、びくりと肩を揺らした。宮地はそのまま小さく狼狽えて、体育館を出ていこうとする。

「宮地!」
「……わりぃ」

すぐ戻るから、は言わなかった。

「…………」
「…大坪、お前な………」
「なにも言うな、木村」

分かっている。宮地が人一倍バスケが好きなのも、真面目なのも。だから、冗談だろうと言ってはいけなかったことも。

高尾が絞められていた首を右手でするりと撫でながら、体育館出て右っすね、と宮地が出ていった方を特に見もせず小さく呟いた。その首には、痛々しい痕など一つもない。

「すぐ戻る、頼む」

宮地が言わなかった言葉を自分で口にして、大坪は体育館を出た。


***


「宮地」

居場所は簡単、昔から先輩と当たっては逃げ込むのは決まって体育館から一番遠い校舎裏だった。体育座りで顔を埋める宮地の隣にそっと座ると、珍しく素直に肩に頭が凭れてくる。首に触れる髪は相変わらず柔らかい。

「……わりぃ」

宮地は、そうやってまた同じことを呟いた。

「本気じゃねぇって、……分かってっけど」

バスケ止めたら、大坪の隣にも居れなくなる。女々しいけど………嫌だって、思って。そしたらなんか、怖くなった。

そうぽつりぽつりと溢す宮地の髪を鋤きながら、俺も嫌だ、そう思う。見た目にしてでかくても所詮中身は高校生なのだ。

そもそも宮地の暴言というのは、素直になれない上に人付き合いが苦手という実は人見知り気味な宮地が、それなりに上手くやっていく為のコミュニケーションの道具だったりする。それが酷くなって今に至るわけだが、取り上げてしまっては元も子もない。
高尾のように平気で戯れる奴もいるわけで、そんな高尾に対しても本気で暴言や暴力を振るったことは一度もない。緑間に対してだってそうだ。

「……悪かった、宮地」

少し抑えようとしただけだったのに、傷付けてしまって。

すると宮地は、本当にな、とまた素直さも可愛げもないことを言って、がばりと顔をあげた。少しだけ涙のたまった目元を拭ってやると、なあ大坪、と少しだけ涙の滲んだ声で言う。

「俺さ、こんなんだけど。……やっぱ、大坪の隣で、一緒にバスケしてたい。」

なあ、いい?
そうやって無自覚に小首を傾げるこいつに、どうして駄目だと言えるのだろうか。

「……止めたいと言っても逃がさんぞ」
「まさか。本気で思ってんなら轢くぞ?」

暴言を吐きながら楽しげに目を細めるから、俺はそれを見ないようにと唇を奪った。これ以上振り回されたらたまったもんじゃない。
それもいいかもしれない、と少し思ったのは、俺だけの秘密だけれど。


暴言の裏側
(周りとしっかり向き合いたい)
(そんなコイツの優しさを)
(俺だけは知っていてやりたいんだ)

20120824








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