短編 | ナノ
atro-ala

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Sweet Poison.


俺はもう高校生だ。でもまだ高校生だ。

自分の誕生日にいつもより若干テンションが上がるのはまぁ仕方がないと思うし、おめでとうと言われて悪い気はしない。部活の仲間やクラスメイトから、祝福の言葉をかけられたり何処でも売ってるような菓子を貰ったり。

もう高校生だから、他人の誕生日に誕生会だとかプレゼント交換とかはしない。でも充分だった。何の不満もなかったのだ。


「…………伊月?」


いや、不満があるとすれば。

あるとすれば、恋人からは何も貰えなかったこと。別に期待していたわけではないけれど、おめでとうの一言ぐらいは欲しかったとか、そんなものだった。


「…………。」


そう、日向は本当に、恋人の、伊月の唇から、おめでとうの一言が貰えれば充分だったのである。


「…………いづ、」

「っ俺が、」


だから、この状況に頭が全くついていかなかった。部活が終わってから家に呼ばれた時点で全く期待しなかったとは言わないが、でもそれはそういう意味ではなくて。

―伊月は自室に足を踏み入れて早々、明かりをつけることもせずに日向の腕を力任せにひいて、綺麗にされたベッドの上に日向を倒した。かと思うと、腹部の辺りに馬乗りになって、一言。


「今日はっ、……俺が、する」

「……は?」


何度も言うが、期待しなかったわけではない。ただその期待は、伊月が照れながらおめでとうだとか言って、あわよくばそのまま頂ければなぁとか、本当にそんなものだったのである。

しかし今はと言えば、あわよくば所か最初からその雰囲気な上に、伊月の今の言葉をそういう意味で捉えたら、それはなんだか物凄い誕生日プレゼントになってしまう気がする。


「伊月、お前……っ」

「っるさい」


窓の外の街灯だけがぼんやりと照らす部屋の中で、伊月が一度ベッドから降りて足元に跪き、日向のベルトに手をかける。俯いているせいで長い前髪が顔を隠してしまっていたが、その動作のひとつひとつは酷く緩慢で、緊張が伺えた。会話の失われた部屋にかちゃかちゃと金属の音がして、やがて止む。伊月、と静止を求めて名を呼んだが、それに返事はなかった。


「……俺が、やる」


それは決心に近くて、止めようとして起こした上半身はその声によって動きを止める。ベッドの縁に座るような形になった日向の脚をぐいと広げてその間に座り込んだ伊月は、その整った顔をそのまま日向の股間に近付けて、器用にジッパーを唇で食んだ。


「っ、いづっ」


幾度か顔の角度を変えて、それをゆっくりと下ろす。じ、じ、と焦らすように下ろされていくジッパーが進むほどに、伊月の熱い息が敏感な部分にやんわりと触れて堪らない。

けして暗過ぎはしない部屋の中で目を凝らして伊月を見ると、前髪の隙間から辛うじて見える口元が、どうにも下半身には毒だった。遠慮がちに食む柔らかな唇、隙間から覗く舌。

それらにシーツを両手で握りしめることで耐えていると、ようやくジッパーを下ろし終えたらしい伊月がそこで一息ついて、でもまたすぐに行動を開始した。


「……触る、から」


確認、というよりはやはり決意。伊月は右手でそっと日向の欲望に触れて、半立ちになったそれをずるりと引き出した。綺麗な手でするりと撫でて、伊月の喉がこくりと鳴ったかと思うと、そのまま口の中へと導かれる。


「ん、ぅ………」


熱い口内で舌がざらりと絡み付いてきた。それから一度離したかと思うと、根本から一気に舐め上げられる。普段日向が伊月に対して行うそれと、全く同じだった。


(っ、やべ………っ)


快感に素直な身体は簡単に高まり、欲望はあっさりと天を向いていた。日向がするより緩慢でぎこちなくて、だからこそ愛しいと思えるそんな口淫。与えられる快感は勿論、自分の為に一生懸命施してくれる伊月が可愛くて、ぞくりとした。


「いづ、き…っ」

「んぅ……、きもち、い…?」

「っ!!」


先端に赤い舌を這わせたままで心配そうに見上げてくる伊月は、ただただ甘い毒。ちゅ、と先端に吸い付いて親指で裏筋を撫でられたら、そこからはもう早かった。


「っ……は、なせっ」

「え?」

「っぅ、あ…っ」


下半身から腰にかけてがぞくりとしたかと思うと、堪える間もなくびゅくりと弾けた。伊月の顔にぱたぱたと掛かってしまっているのは頭の端で認識していたが、弾けたものを途中で止めるなんて出来るはずもない。

処理をおざなりしていたせいか量の多いそれの放出が収まった頃に恐る恐る目を開けてみると、そこに広がっていたのは糖度の上がった毒だ。


「ぅえ……べとべと」


日向はもう高校生だ。しかも男子高校生だ。だから普通にAVも見るし、付き合っているのは伊月俊という男であっても、けして女が嫌いというわけではない。画面の中で知らない女が嬌声を上げながら乱れていれば興奮もする。


(でも、これはちょっと……っ)


やばい。

画面の中で知らない女性が嬌声を上げながら乱れていれば興奮もする。が、目の前で、知っている男が荒い息で自分の精液を顔中にぶっかけられている方が、日向には大打撃だった。

伊月は顔中に飛び散った精液を指で掬って、日向がするようにぺろりと舐めて見せた。ぅえ、と苦そうな顔をして、それ以上自分の顔に飛び散った精液には触れず、しかし日向の欲望に残ったそれを躊躇なく吸い取ってこくりと喉を鳴らす。そんな行動ひとつひとつにまた頭をもたげ始める欲望に、伊月は苦笑とはにかみを混ぜたような笑みを溢した。

それから上目遣いで、悪戯に成功した子供みたいな声色で一言。


よかった?



Sweet Poison.
(俺なんかで良ければ全部あげる)
(……誕生日、おめでと。)


遅すぎる上に尻切れ蜻蛉ですみません…
20120722








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