短編 | ナノ
atro-ala

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お前不足警報発令


外は見事な大荒れ、らしい。

「へぇ、そんなに酷いんだ」

伊月は平淡な声で電話の向こうの日向に言った。
朝7時12分、普段ならそろそろ家を出ようかという時間に、伊月はまだゆったりとした部屋着を着ていた。いや、まだというか、今日は恐らくこのままだろうが。

「見りゃわかんだろ」
「わかんないよ、全然」

右耳にケータイを押し当てたままベッドから腰を上げて窓の外を見る。

なんにも、分からない。

そりゃあそうだ、窓硝子に容赦なく雨粒が叩き付けられていて外なんかまともに見えやしない。家の中にいる分マシではあるが、風の音と雨が地面に叩き付ける音が一緒になって鼓膜を総攻撃してきている。

「あ、でもテレビは見たからな、ちゃんと。台風直撃警報オンパレード……はっ、音波のオンパレード」
「意味わかんねぇよ」
「キタコレ!」
「きてねぇよ!いや台風はきてるけど!」

そう、台風。例年より少しばかり気が早いようではあるが、一年に一度は何かしらやってくれるやつだ。
本日その台風は見事東京を直撃し、大雨に洪水に雷に暴風にと此れでもかとばかりに警報を発令させて、結論休校である。テレビの中では、ヘルメットに雨合羽という心許ない格好をしたリポーターが命がけで現状を伝えていた。

「にしても凄いな、リポーター飛んでいきそう」
「毎度思うがリポートせんでも見りゃ分かるよな」
「それが仕事なんだから仕方ないだろ。で、流石に練習もナシ?」

何も無意味に電話した訳ではないのだ、用件を伝えねば意味がない。あのカントクでも今日ばかりは休みにするだろうが、もしかしたら家で出来る自主トレのメニューなんかを主将である日向なら言付かっているかもしれないと思っての電話だった。
がしかし、日向にはそれが面白くなかったらしい。

「ねぇよ、ンなもん。」

と、あからさまに不機嫌な返事を返された。

「……、なに怒ってんの?」
「別に怒ってねぇよ」

や、絶対怒ってんじゃん。
なんて言ったら多分雨風以上にデカイ声で怒鳴られそうなのでやめておく。とは言え、訳も分からず拗ねられているのは後先面倒だし、何より普通に気になった。
ので、

「……ごめん、日向。俺が馬鹿だから、なんか怒らせたみたいだな。本当ごめん、……それじゃ」

と、態とらしくないように細心の注意を払ってしおらしい声で告げた。
すると、

「だあぁあ!」

ほら、ね。日向って単純。

「嘘言った、ちょっと拗ねてました!」
「……なんで…?」
「…あー、それは、まぁ置いといて、」

あ、置いとくの?
ってのはやっぱり飲み込んでおいて。
うん、と不安気な声で相槌をうったら、電話越しに盛大な溜め息を吐かれて、

「俺を慰めに来てくれませんか。」

って。

なんだ、そういうことか。



お前不足警報発令
(台風4号、もうすぐ我が家へ上陸。)

(じゃあ一時間後に迎えに来て)
(お安い御用……ではないな)
(頭に鉄骨とか刺して来るなよ?)
(縁起でもねぇこと言うな…!)


次は台風5号だから伊月が突撃しに来ますね…!
20120619








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