短編 | ナノ
atro-ala

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ゴーグル越しに揺らめく


「日向、眼鏡貸して」
「は?ってオイ!」

奪われた眼鏡を取り返そうとするも、上げた右腕は見事に宙を掻いた。視力が極端に悪い日向にとって、眼鏡とはプールでいうゴーグルだ。なければ見えない、見えたところで距離感も何もない色素がただ揺れているような感覚。

「ね、似合う?」

奪った眼鏡をかけているらしい伊月は日向とは逆で、視力のいい目に度のきつい眼鏡のせいでよく見えていないらしい。ゆらゆらと揺れる世界の中で日向を見つけて声をかけてみるが、お互いにいまいちよく見えていないせいで会話にならなかった。

「悪いが、全く見えねぇ」

日向は思いきって伊月に顔を近付けてみた。変に距離が縮まったせいで視界いっぱいが肌色と黒色になったというぐらいしか分からない伊月に、近付いてみてやっとなんとか伊月を視認出来た日向はふっと笑って、似合ってんじゃねぇの、と告げた。
思いの外近くから聞こえたその声を不思議に思って伊月が眼鏡をぐっと上げると、その距離数センチのところに日向がいて。

「なんッ!?」
「あー、でもやっぱそっちのがいいな」

近すぎて、焦点が合わない。しかし唇に感じた熱だけは、日向の位置をしっかり伝えてきた。

「たまには眼鏡もいいけど、伊月の目に余計な飾りはいらねぇよ。つか、眼鏡ねぇと俺が見えねぇだろが」

伊月の手から眼鏡を取り返して、馴れた様子でそれをかける。鮮明に見えた伊月が頬をうっすらと朱色に染めていて、やっぱりこれが一番だと思った。


ゴーグル越しに揺らめく
(手の届く距離で)
(鮮明に見える君がいい)


日月の日記念!タイトルは某曲のワンフレーズでもあったりします。

20120405








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