短編 | ナノ
atro-ala

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傷付いた薬指

「った…!」
「伊月!」

ずばん、バスケットボールとは明らかにの違うバレーボールの弾む音がした直後、伊月は尻餅をつくように転んだ。組んだ手は反射的に離して床にぶつかる瞬間に手をついたが、逆にそれが激痛だった。
チームの仲間と審判が駆け寄ってきて、大丈夫かなどと声をかけてくる。大丈夫だよ、と笑って見せたが指先が真っ赤になっていて、信憑性の片鱗もない。

「うわー…」

ずきずきする箇所をそっと見てみた。左手の薬指の爪の上半分ぐらいが紅紫に変色して、爪と指の間から血が溢れだしている。

「伊月、大丈夫か!?」
「んー、半分ぐらい剥がれちゃったけど、大丈夫」

ぴらぴらと手を振りながら笑顔を浮かべる。これでもかとばかりに心配気な表情をして相手コートからネットを潜って走ってきた木吉が、伊月の手を見て自分まで痛いような顔をするから、気にすることないよとその手を隠した。

「そのうち血も止まるだろうし、続きしようよ」

バレーボールなんて特に好きでもないしやりたい訳ではなかったが、その場を繕う為にそう告げた。実際、放っておけばなんとかなるものだと思っていたわけだが、同じチームに組まされたバレー部の一人が、伊月ってバスケ部じゃなかったっけ、とそんなことを口にして、なんとかならないことを説明してくれた。

「冷やさないと血豆になる。かなりいっちゃってるし、保護しとかないと菌入ったらまずいぜ」

何がどうまずいのか分からなかったが、その言葉に反応したのは伊月より木吉だった。伊月の隠した腕を大きな手で掴んだ木吉は、保健室行ってくる、と有無を言わせぬ勢いで体育館から出た。氷嚢ぐらいなら教官室にある気がしたが、心配してくれているのが擽ったくて伊月は言葉にしなかった。

「木吉、痛いよ」
「あ、すまん、つい」

腕を握られたまま本館に足を踏み入れ、もう職員室前に差し掛かっていることもあり気恥ずかしさからそう言った。
握られた手首が離されて、でももう一度掴まれる。

「木吉?」
「血、止まらんな」

唐突に言われて何の事か理解しきる前に、伊月はびくりと肩を揺らした。
指、銜えられ、た?

「な、え、木吉っ?」
「ん?」

指先にそっと舌が絡み付いて、固まりかけていた血も膨れ上がっていた血も一緒に舐め取られていく。爪の奧に溜まった血を吸い出すように少し強く吸われると、指先と頭とがじんと痺れた。

「ん……よし」
「あ…」

あとは消毒してテーピングしとこうな。そう言いながら職員室前を歩ききって、保健室。保険医は出張でいないようだったが特に施錠されていたわけでもないので難なく入室していく木吉の、裾を右手でひく。

「伊月?」
「あ、…えっ、と」

不思議そうな顔で振り向いた木吉に、引き留めておいてなんと言えば良いのか分からない。黙り混んでしまった伊月は木吉に続きを促されて、ずきずきともじんじんともする左手の薬指を木吉の前に突き出し、

「…体育、このままさぼらない?」

と、頬を赤くしてそう言ってみた。


傷付いた薬指
(俺を愛して癒してよ)



このあとどうなるかは皆様にお任せします。学校でやらかしてしまうか、木吉が気付かずに「そんなに痛いのか?」などと言い出すのか、後者な気がする。
もともと日月として考えてましたが、指を銜えるというアクションが入った時点でヘタレには無理だと思った結果の木月です。
20111201








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