短編 | ナノ
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ボク色に染められて


「あの、伊月センパイいらっしゃいますか」
「伊月君ならあそこの、ほら本読んでる」
「あぁ、すみません、有り難うございます」

教室の後ろ、扉の開いていた方から顔を出して、すぐ近くにいた女子生徒に伊月の居場所を聞いた。
実はというと、黒子は伊月の居場所を知っている。出席番号三番の伊月は、黒板向かって一番左の前から三番目、この寒い季節には重宝する日の当たる席で読書していることが多い。何故態々居場所を聞くのかというと、

「黒子、また来たのか」

―…なんて、読んでいた本から顔をあげて、綺麗な笑顔をボクだけに見せてくれるから。

伊月が読んでいる本は様々で、流行りの漫画の時もあればマイナーな小説の時もある。ギャグも冒険物も等しく好き、つまりは雑食といったところだ。
そんな伊月が今読んでいるのは―…

「面白いですか」
「あぁ、すごく。なんだろうな、登場人物自体はギャグみたいなのに解決する事件が凝ってて、そのギャップがたまらないと言うか」

黒子が貸した、推理小説。
あまり読んだことがないと言う伊月に、腐るほどある本の中から伊月が好きそうなものを選んで貸したのである。

―…共通の会話がほしくて。

「もうすぐ読み終わりますね…よければ続刊もお貸ししましょうか」
「マジ?借りる借りる、読みたい」
「明日持ってきます」

これで明日も来る理由が出来た。部活の時にだって勿論会えるが、そうじゃなくて、伊月が黒子を、黒子だけを見てくれないと意味がない。
本の会話が終わったところで、黒子は伊月の机の右側に立ち、持っていた数学のノートを開いて見せた。そこには丁寧な字で板書された三角比云々が書かれている。

「数学、教えていただきたくて」
「あぁ、…サイン、コサイン、タンジェントか、なんか懐かしいな」

伊月が、読んでいた本に栞を挟んでぱたんと閉じた。机に肩肘をついて、黒子の持っていたノートを奪う。
伊月は、シンプルなデザインの筆箱からシャーペン―今気付いたが黒子が伊月の誕生日にあげたもの―とブロック型の大きい付箋を出して、黒子が予めノートに書き留めていた“解らないこと”を一通り読み、それを咀嚼するように付箋にシャーペンを滑らせる。綺麗な手から綺麗な字が生み出されるのを見つめながら、書き出される文書やグラフにあぁそうかと疑問点を解決して、有り難う御座います、どういたしまして、そんなやりとりがすきだ。
解説が書き込まれた付箋がノートにぺたりと貼られて、ノートが返される。それだけの、短い時間。

「またおいで、数学なら教えてやる」
「はい、有り難う御座いました」

頭を下げて、伊月の元を離れる。教室を出るとき一瞬だけ振り返って見た伊月は、また読書に耽っていた。


ボク色に染められて
(ゆっくり時間をかけて)
(離れられなくなればいい)



拍手でコメント下さった方が月←黒なんかも好きだとのことだったので書いてみました。そうです、鴉月は超単純です。
というか今まで現代ものを書いてこなかったのでイマイチ文にしにくいと言いますか。そんな訳なので拍手にネタ投下して下さると多分ホイホイ書きます。
にしても月←黒が意外に楽しかった罠……続編あってもいいかもしれない。
20111120








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