ただいまの
「………はぁ。また抜け出してるよ兄さん…」
午前3時半。フワリと覚めた目で向かい側にある兄のベッドを見てみればもぬけの殻。
多分また『クロとの遊び』と称した鍛練に出掛けているのだろう。
「また授業中に居眠りされたら僕が困るんだけど」
溜め息を吐き出しながら呟く。
そこに
…………キシッ…キシッ……
微かに響いた床を踏み締める音。
僕はもう一度小さく溜め息を吐いてからタヌキ寝入りを決め込む。
…………キシッ…キィ、カチャッ……「…よし、寝てんな雪男(ボソボソ)」…
起きてるよ、と突っ込みたくなるが我慢。
そのままコソコソと兄さんが室内へ入って来る音が響いて、それは兄さんのベッドの方へ……向かわなかった。
兄さんの微かな足音はそれとは逆の僕のベッドへと近付いて来る。
「…………ゆきお…ねてんのか…?」
小さな小さな問い掛け。勿論僕がそれに答える事はなく努めて寝たフリを続ける。
…………ギッ…
微かにベッドが軋む音。スプリングの沈んだ感覚と吐息の近さから兄さんがベッドに手を突いて僕の顔を覗き込んでるのがわかる。
「……………ゆきお…」
兄さんは吐息で掻き消えるような声音で僕を呼んで
チュッ
柔らかくて温かい感触がほんの一瞬だけ僕の唇に。
「…………ん…兄さん……」
「っ!!」
寝言の振りで呼べば盛大に驚いて身体を揺らしたらしき振動がベッドから伝わって来る。
そのまま慌てた様子で自分のベッドに戻った兄さんは鍛練の疲れからか程なくスヤスヤと寝息を立て始めた。
「………僕を眠れなくしておいてイイ気なもんだね、兄さん」
寝転がったまま身体だけ兄さんの方に向ける。
兄さんのあの行為に気付いたのはつい最近の事。最初は吃驚したけれど、ずっと心の中にいた人からの秘密の行為は僕に取ってただただ甘いだけだった。
「……明日は平日だから見逃したけど、明後日は休みで任務も入ってないから…覚悟しといてね、兄さん」
今までは黙って堪能させてもらっていたのだけれどそろそろ僕の我慢も限界。次の機会には兄さんをこの腕に抱くからね、と僕は眠る兄さんに呟いてから再び瞼を閉じた。
勿論、眠れないから意味は無いんだけど、ね。
オワリ
そして後日雪男に押し倒される燐の姿が(笑)
110713←
戻