「謙也はさ、嘘つかないよね。」


もっちゃもっちゃ弁当食いながら何云い出すかと思ったら、変な事や、しかも、俺はちゃんと名前の方見とんのに肝心の名前は俺に一瞥もくれへんと黙々と弁当を食っとる。

ちょっとムカつくんやけど、少しだけ考えて俺は口を開いた。


「そんなん当たり前やん。」

「でも、白石は平気で嘘つくよ。」

「白石はそういう奴やからなぁ。」

「私に本気にしちゃう所だったよ。」

「何て云われたん?」

「…。」


何でそこで黙んねん、会話は言葉のキャッチボールやで、後、テンポ。

何て考えながら名前が話始めるのを卵焼き食べながら待った。


「好き。」

「…は!?」


いいい今何て云うた!?

トンカチで頭殴られたみたいな強い衝撃のお陰で箸落としてもうた、ああ、洗いに行かなアカンわ。

って違う違う!


「白石が名前にそう云うたんか…?」


そう聞くと名前はタコさんウィンナーを食べながら頷いた。

ホンマ、あのエクスタシーだけはどうにもならんな…。

俺は弁当を横に置いて名前に向く。

名前はやっぱり黙々と弁当食うとる、こいつホンマに人の話聞く気有るんかいな、別に良えか。


「まぁ、白石は60%のイケメンと20%の嘘と10%のやらしさと10%のエクスタシーで出来てるからな。」

「いや、100%エクスタシーでしょ。」

「…そうやな。」


否定出来ひん、白石の日頃の行いが悪いっちゅー事で。

せやけど、白石がホンマに名前ん事好きやったらどうなってたんやろ、多分、今、こうやって二人で弁当なんか食うてるんかな。

…何や、胃がムカムカするわ、食べ過ぎか?兎に角気紛らわせよ。


「けど、それが嘘やのうて本気やったら名前はどないすんねん。」

「…。」


せやから、黙らんといてって、返球してこんかい、めっちゃ気まずいやん。

俺は、行き場のない目線を空に向けたり名前の弁当に向けたりする。

あー、腹へったわ、もう、手で食ったろうかな。


「断る。」

「え、」

「え、って何。」

「いや、殆どの女子が全然構へん!みたいな返答する筈やから、何や、意外っちゅーか何ちゅーか…。」


俺が吃りながら喋ると、名前は、顔が良ければ良いってもんじゃないよ、と呆れながら云ってきた。

そんなもんなんや、俺、イケメンやったら何やっても許される思てた…。

俺がボーッとしとると、名前は自分の弁当のおかずが無くなったんか俺の弁当をつつき始めた。


「ちょ、何してんねん!つつくなや、まだ食べるんやから!」


そう云うと、名前は俺のおかずのハンバーグに箸をずどんっと刺した。(怖…)

ハンバーグ盗られてもうたーって思っとったら、そのまま名前にぶっ刺されたハンバーグがすっと俺の前に差し出される、どういう状況?


「あげる。」

「いや、あげるってもとより俺のハンバーグやし。けど頂きます。」


ん、冷凍やけど腹へっとったから旨く感じるわ。

名前は、旨いか、って聞いてきたから、おん、冷たいけどなって返した。

俺がもっちゃもっちゃハンバーグ食っとると名前は箸咥えながら何か考えとった。

あ、今思ったんやけど間接チューやん、うわ、今更恥ずかしゅうなってきたんやけど、アカンアカン、何やこれ、青春かっ。

俺が首を左右にぶんぶん振っとったら、名前は、何してんねやろ、こいつ…、みたいな目で見てくるけど気にしいひん。

名前は一頻り、首を目一杯振る俺を見てから残りの弁当を食べ始めた。(云うても、もうご飯しか残ってへん)

俺も、手で摘まめるおかずをひょいっと口に入れた。


「私、謙也好きだよ。」

「ぶふぁっ!」

「うわっ、」


いきなり何云うかと思たら、突拍子無さ過ぎて口に含んどったおかずを豪快に吹き出した。

名前は嫌そうな顔しながらもハンカチを渡してくれた、俺は断ったけど(汚れてまうし)名前は、そっちの方が汚いから、って云って呆れとった何や、滅茶苦茶情けな…ちゅーか、そんな事より。


「さっき云うた事、ホンマか…?」


何かがっついとるみたいで気持ち悪いな…第一、そんなん聞いてどないすんねん、もし、仮にも名前が俺ん事好きやったらどう返すつもりや、いや、そんなん有り得へんけども!


「本当だよ。」

「…え?」


こ、れは、何フラグ…?ちゅーか、俺喜んでも良えんか?そんな事より、何か返事しとった方が良えかな…あー、頭ぐらぐらするっ!

俺が頭抱え込んでなんかぶつぶつ云うとると、名前は何となくバツが悪そうな感じで云った。


「別に、謙也の事は友達として好きなだけだから。」

「あ、お、おん、せ…やな…。」


あっさり否定されてもうた。

立ち直れへんわ、今日は泣こう…ちゅーか、何で俺こないに傷付いてんねやろ、これじゃ、俺が名前ん事…あ。

俺は、名前に向き直り真っ直ぐ名前を見る。

名前はちらっと此方見たけど相変わらずご飯を口に運んどった。

そんな事気にせず、俺は名前に云う。


「俺は名前が好きや。」

「…は、」


最初、名前は冗談やろ?みたいな顔しとったけど、俺が無駄に真面目な顔して云ったもんやから名前は何とも云えん表情を浮かべた。

それから、名前はふいっと視線をそらした…完全に嫌われてしもたな。

俺は、名前に聞こえんように小さく溜め息をつきながら、今、のは…聞かんかった事にしてくれへん…?と名前に云った。

せやけど、肝心の名前から全く返事が帰って来いひん、へ、返事したくない位嫌われたんか…!?

そんな風に一人で瞑想しとる俺の上からぽつりと声が聞こえた。


「…嘘つき。」

「…え?」


ぱっと顔をあげると、名前は俺から完全に顔を背けとった。

ホンマに嫌われてもうたんかなって思って、ぼーっと風に靡く名前の髪を見とったら、真っ赤になっとる耳が少しだけ見えた、気が付けば俺は名前を抱き締めとった。

名前は驚いてパッと此方を見た、思った通り名前の顔は真っ赤に染まっとる。


「名前、滅茶苦茶真っ赤。」

「…謙也も真っ赤だし。」


そう云いながら名前は地味に後ろに頭突きをしてくる、俺は何回か頭突きを食らいながらも名前を更に強く抱き締めた。

何時の間にか名前も頭突きを止めて大人しくしている。

暫く抱き締めていると、ぽつりと風の音に負けそうな位の声で名前は呟いた。


「…嘘つき。」

「嘘やない。」

「やっぱり、謙也も白石と同じなんじゃん。」

「俺は白石みたいに"冗談"で終わらせたない。」


俺がそう云うと名前はまた黙り込んだ。

小さく「…馬鹿じゃないの。」と名前は云ったがそれさえ何故か愛しくなる。

今まで何回か胸がむず痒くなってきたけど(それが、名前を思っとる気持ちと同じなんかはよく分からへん)、名前以上はきっとおらへん。

そんな事を考えながら、名前にもう一度、好きや、と云った。

名前ら相変わらず何も云わんと、俺の腕の中でじっとしとる。


「…狡い。」

「へ?」


名前のいきなりの発言に俺は素っ頓狂な声をあげた、うわ、俺滅茶苦茶ダサっ。

兎に角、落ち着くために小さく深呼吸して名前の次の言葉を待った。

名前は少しだけ話すのに躊躇したように見えたが、ぽつぽつと自分に云い聞かせるように話始めた。

「自分ばっかり云いたい事云っちゃってさ、」

「う…、すまん…。」

「私の返事聞かずに無かった事にするしさ、」

「…。」

「自分勝手だし、狡いし、狡いし、狡いし。」

「いや、そこまで卑しい人間や無いつもりなんやけど…。」

「謙也、好き。」

「おん…え、」


そのままのテンポで返事しとったら名前の口から思いもよらへん単語が聞こえてきて、俺はまた間抜けな声を出してしもうた。

…あ、せやけど、友達として…やんな…期待したらアカン、期待したらアカン。

そう考えたら何や急に苦しゅうなって、名前を抱き締める力が少しだけ緩くなった。

それに気付いたんか、名前はふいっと顔を此方に向ける、心なしか寂しそうなんは、俺の思い込みやろか。


「何離れていこうとしてんの。」

「せ、やけど…名前は、俺ん事友達として好きなんやろ…?」


期待したらアカンのに、心の何処かで名前の答えを期待してまう。


「…そんな訳、無い、」


ほら、今やって。


「じゃあ、さっきのは、」

「…謙也が迷惑そうな顔してたから。あんな反応されたら云い出し難いじゃんっ、」


そう云いながら名前は小さく肩を震わせながら俯いた、何で名前はこんなに俺を狂わすんやろ。

多分、名前は俺の告白をまだ少し嘘やって思っとるらしい、そっちがその気なら此方やって対抗したる、名前への俺の気持ちが嘘やないって証明したる。


「覚悟しとき。」


名前は眉を潜めて、何を?みたいな表情しとった、そんな表情にもときめいとる俺は、やっぱり名前が好きなんやろな。


2011/10/30
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