あの時に見た雲の形、空の色、風の匂いを俺はまだ覚えてる。


「――であるから…、不二ーちゃんと話聞いとけよー。」

「へ!?あ、はいスミマセン!」


俺はぼーっとしてたから、いきなり名前を呼ばれ吃驚してガタンっ!と大きな音をたてて立ち上がった、かなりの焦り様だったみたいで、周りからはクスクス笑い。

其れが恥ずかしくて、俺はいそいそと椅子に座る、最近は何時もこうだ。

授業受けてても、テニスしてても、全部、全部上の空、右から入って左から出ていってしまう(誰だ今懐かしいとか思った奴)

兎に角、最近の俺はどうかしてる、そのせいで練習にも集中出来ないし、ミスも多くなってきてるし、観月さんや赤澤さんに迷惑掛けっぱなしで…ああ、くそっ。

何か全部何時も通りにいかない、まぁ、悩みの元凶は分かってるんだけども…俺はぶすーっとした表情のままつまらない授業を受けた。

授業終了のチャイムが学校内に鳴り響く。

俺は深い溜め息をつきながら、勉強道具を机にしまう、それと同時に勢いよく開くドア。


「ゆ、裕太ぁ〜!」


「…またですか…。」


ドアを開けたのはテニス部マネージャーの名前さんで。

名前さんはぼろぼろ泣きながら俺の所まで駆けてくる。

そして、そのまま抱き着いてきた、こういう事にも慣れてしまった俺は眉間に皺を寄せながらも、名前さんの背中を撫でる。


「で、今日は何が有ったんですか、名前さん。」

「裕、太、裕太っ、」

「はいはい。俺は此処にちゃんといますから。」


そう云うと名前さんは少しだけ静かになるけど、このまま教室にいるのも何だし、俺は名前さんを連れて屋上に向かった。

屋上について数十分、名前さんは少しだけ落ち着いたのか、鼻をぐずぐずいわせながらも、ゆっくり話始めた。


「観月って、分からず屋だよね…。」

「あー、まぁ…。」


全否定出来ない自分が情けない…俺は取りあえず首を縦に降った。


「いっつもシナリオシナリオって…。もうシナリオと結婚しちゃえば良いのに…、」

「それはちょっと…。」


出来ないというか、気持ち悪いというか…。

その後もぽつぽつと呟くような名前さんの話を苦笑いしながら聞いた。

時々、目に泪が浮かんでたけど、名前さんは唇をぎゅっと噛み締めて耐えていた。

泣いても良いのに、俺の前でだけだけど、何て云えたらきっと楽なんだろうな、けど、こんな臭い台詞は耐性も無いし云う度胸も無い、こういう時は、本当兄貴が羨ましい。

俺が一人で考えていると、名前さんは消えそうな位小さな声で呟いた。


「観月なんか、嫌い…っ、」


そう云うと同時に名前さんの目から泪が流れ出す、そんなに苦しいんだったら。


「…なら、何で毎日観月さんの事で俺に泣き付いてくるんですか?」


俺がそう聞くと、名前さんは一瞬驚いたような顔をして、しかし直ぐ淋しそうな表情に変わった、そんな顔、させたい訳じゃない、只、名前さんには、


「笑ってて欲しいだけなんです。」


云ってハッとなる。

ヤバイヤバイ。

全身から、嫌な汗というか何というか変なのが溢れ出す、目だって游ぎまくってる、恐々名前さんを見た。

驚いてるのか呆れているのかよく分からない表情だ…どうせなら、もっと違う表情してくれれば良いのに。


「ごめんね。」

「…謝らないで下さい。」

「うん、ごめぅえ…、ありがと。」

「別に良いっすよ。」


名前さんがまた謝ろうとしてたから、頬を人差し指で押した、そうすると、眉が下がったままだけど名前さんはふわっと笑った。

大切な人には笑ってて欲しい人の気持ちって、きっとこんなんなんだろうな。

其れからは、お互い何も云わずに授業が終わるのを待った。

流れる入道雲、透き通るような青い空、夏独特の爽やかな匂い、風に靡く名前さんの髪、その髪の毛から覗く泣いて少し赤くなった目、その一瞬を四角く切り取って、俺は全部脳裏に焼き付けた。


2011/08/18
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