ゆっくり霞んでいく世界に映ってたのはこの世界で俺の一番好きな人。
「あー…、だっる…。」
何や、この体のだるさ、ありえへんわ。
俺は疲れの溜まり切った体を起こす。
バキバキ、ごっつ痛い。
深い溜め息をつきながら覚束無い足取りでリビングまで行った。
リビングには、小さな机と椅子、少しばかり古ぼけたテレビ、そして唯一部屋の中を彩るような写真立てのみ、他には何にも無い。
まぁ、上京する時に邪魔なもんは全部あっちに置いてきたし。
せやけど、一応裁縫道具はちゃっかり持って来てんねんな、今は殆どつついてへんけど。
俺は何も無いリビングを見渡す、やっぱり何も無い、何も、いない。
「ホンマは、もう一人、邪魔な奴がおったんやけどなぁ。」
ぽつりと独り言のように呟きながら、ふと目に入った写真立てを手に取る。
其処に映っとるのは、笑っとる俺と、泣いてる彼奴。
彼奴は、真っ白で綺麗なドレスを着て、嬉しそうに泣いとった、俺も、似合わへん真っ白なタキシード着て滅茶苦茶嬉しそうに笑っとった。
ホンマ、俺も彼奴も一番幸せそうな顔しとった。
せやけど、そんな写真を見とると写真を持つ手に力がこもる、酷く心臓が締め付けられる。
「…何で、守れんかったんやろ…。」
口からは自然と言葉が零れる、何で、何で、て呟きながら彼奴の顔を指でなぞる、そうすれば、ぽたぽた溢れ出す汚らしい滴。
口から出てくるんは阿呆みたいに彼奴を求める言葉。
「…俺、を、独り、に、せんとい、て…っ、」
兎に角其処からは何時もみたいに狂ったように泣く、泣いても叫んでも、彼奴が戻ってくる事なんてあらへんのに、それでも、俺、物分かりの悪い人間やし。
今日も、彼奴を想って声を枯らす。
2011/07/16