あ、名前先輩や。

朝から元気やな…ちゅーかボタン開け過ぎ、胸見えるし…ん?…んん?首の、アレ…キス、マーク…、か?

サーっと、体の血の気がひいた。

いやいやいや、有り得へんし、寧ろそう思いたいっちゅーか、何ちゅーか、まぁ、名前先輩は俺の彼女やないし、名前先輩が誰とナニしようと関係あ…るわ。

もう何や、どうでも良え、考えるのも面倒臭い、彼女とかそうやないとか知らん、第一、名前先輩にキスマークが有るって分かっただけなんに、ここまで動揺するんや、俺、多分、名前先輩ん事好きなんやろな、何て考えながら、取り敢えず俺は名前先輩に近付いた。

名前先輩は俺が視界に入ると、犬っころみたいに尻尾(勿論付いてない。)ぶんぶん振りながら此方に駆け寄ってきた。

…犬や、って違う違う。

少しだけ目を瞑って自分を落ち着かせた。

そんな俺を、珍しい物でも発見したような目でじっと見てくる名前先輩…やっぱり犬や、あー、もう。

名前先輩=犬思考が抜けへんのやけど、どないしよう…もうこの際其れでいこう、名前先輩=犬でも良えやん、俺、案外犬好きやし、せや、名前先輩の事犬や思えば良えんや、そしたら、普通に聞けそうな気するし。

ゆっくり目を開くと、犬の…間違えた、犬みたいな名前先輩がまだ俺の事を見とった。

俺は至って自然に名前先輩の頭を撫でた。

名前先輩、嫌がるかな思たけど余りにも嬉しそうに笑うもんやからちょっとたじろいた、あ、でもこのタイミングなら聞けるんとちゃうか?まぁ、駄目でもともとやしな…そう思い、俺は云う。


「首、何かシたんすか、」


俺がそう聞くと名前先輩は、まん丸の目を大きく開いて驚いとったけど、直ぐに赤くなってわたわたと首元をシャツで隠した。

え、何この反応。

マジ、なんか、ホンマに、キスマーク、なん…?

頭真っ白になるってこういう事やろな、何も考えられへん。

何にも云わへん俺を名前先輩は心配そうに覗き込んできた。

俺が顔を上げると安心したようにふわっと笑う名前先輩。

名前先輩の阿呆。

そんな名前先輩の首元に問答無用でかぷっと咬みついたった。


「…なっ、財、前…、?」


俺の頭の上で名前先輩の驚きと恐怖の混じった声がした。

せやけど俺は、そのまま誰に付けられたか分からへんキスマークを舐めた。


「う、わっ、」


名前先輩の色気の無い声。

せやけど其れだけでも、少しだけ征服した気分になった。

このままどっか連れてってアレやコレやしたい思たけど、名前先輩に嫌われとおないし。気が付けば、名前先輩がぼろぼろ泣いとったから、小さくリップ音たてて離れたった。

きっと、何で泣いとるんですか?とか聞いたら叩かれそうやから、俺は何も云わずに、只名前先輩の大きな瞳から流れる雫を拭った。

もう名前先輩嫌われたんやから、どうでも良えわ、名前先輩に触るんは、此れで最後やろな、どうせ終わりなら、せめて泪位は拭ってやりたい、それ位許して下さい、何かに祈るとか馬鹿らしい、第一、俺らしくない、そう思いながら、名前先輩が落ち着くまでずっと泪を指や掌で拭った。

それから少しして、殆ど名前先輩の嗚咽が聞こえへんくなってから俺は小さな声で云った。


「名前先輩、スンマセン。」


返事返ってけえへんのは辛いけど、当たり前か、俺は名前先輩の小さい頭をくしゃっと撫でた。

もう何時もみたいに反応してくれへんのも分かっとるから、あまり寂しくはならんかった、只、心臓が無駄に痛なった。

最後にぽんぽんて撫でて、手を離そうとした。

せやけど、きゅって俺の腕を掴んできた小さな手、其れは紛れもなく名前先輩の手で、いきなりの名前先輩の行動に驚き過ぎて身動き一つとれへん、そんな俺に、名前先輩は小さくて震える声で云った。


「嫌い、に、なっちゃ、ヤダ…っ、」


何で、そんな事云うねん。

何時の間にか俺は名前先輩を抱き締めとった、俺よりも一回りも二回りも小さい名前先輩、後少し強く抱き締めたら雲みたいにふわふわ消えてしまいそうな位や。

そんな名前先輩を割れ物を扱うみたいに優しく、本当に優しくもう少しだけ強く抱き締めた。

そうすれば、シャツが微かに引っ張られる感触。

見れば、俺のシャツを緩く握っとる名前先輩、ああ、もう。


「めっちゃ、好きや…っ、」


意思とは関係無く紡がれた台詞に俺も、名前先輩も驚いとった、告白にあわあわする名前先輩、めっちゃ可愛え。

俺が笑っていると、袖がくいっと引っ張られて、見てみれば名前先輩が真っ赤な顔で口をはくはくさせながら何か云おうとしとった。

金魚みたいやって云おうと俺が口を開こうとした瞬間。


「私、も、財前の、事、めっちゃ…、好き、です…っ!」


名前先輩の口から出てきた言葉に俺は只只驚くしかなかった。

…何やこれ、心臓滅茶苦茶痛い、せやけど、何や気持ち良え。

俺はもう一度名前先輩をぎゅっと抱き締めた、何時の間にか名前先輩も、俺の背中に手回して抱きついとった。

あー、俺、今めっちゃ幸せ。


(そういえば)
(ん?)
(その首のキスマーク、誰に付けられたんすか)
(きっ!きききききキスマークって…!違うよ…っ!)
(え、)
(これ、…蚊に、刺された跡…)
((やってもうた))


2011/07/20
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