「知っとった?人は必ず死ぬんや。せやけど、死ぬんは一回だけやあらへんねん。」


白石が、余りに神妙な顔をしながら話すものだから、私は日誌から顔を上げ白石に向いた。

しかし、何を話すかと思ったら死んだ時の話で、私は、ふーん、とだけ答えた。

そんな私を、白石は少し笑ったが直ぐ他の話題に移った。

実際少しだけ聞いてみたい気もしたが、まだ日誌が書き終わらないので後で聞くことにしようと決め、また黙々と書いていった。

早く帰らないと、見たいドラマが終わってしまう、しかも、今日は最終回。

何でこんな日に限って日直が回ってきたんだよ、私は溜め息をつく。

其れにしてもこの季節は欠席者、早退者が多い、皆暑いの我慢して来てるのにとか思ったけど、別に自分には関係無いので面倒だがサラサラと名前を書いた。

私が日誌を書いている間も、絶えず色んな話をする白石、聞いたような話から、何処で仕入れてきたのか分からないような話まで沢山、沢山。

まるで無限に湧き出る泉みたいに、つらつらと話していく白石。

話し方が上手いから、聞く作業も書く作業も支障はきたさない、私は最後の反省の部分を書き終え、深い息を吐いた。

そんな私に白石は、お疲れさん、と云って私の頭をぽんぽんと撫でた。

私はでしょ、と軽く返事をし、日誌を閉じた、すると白石は、気持ち悪い位ニコーっと笑って云った。


「え、何…。」

「いや、何でもあらへんよ。」


白石が余りにも爽やかな笑顔を浮かべているものだから、多少気味悪かった、そんな少し変な白石に聞くのも気が引けるけど、好奇心には敵わず、つい零れるようにポロッと云ってしまった。


「さっきの、本当?」

「…は?」


おぉ、白石にしては、何とも抜けてる顔だ、って違う。

私は白石に、聞いてる?と云った。

すると白石はやっと理解出来たのか、おん、とだけ云って笑った。

そして、それじゃあ、さっきの続きな、と云い、話始める。


「アレな、嘘かも知らんねん。」

「信憑性が無いって事?」


私がそう聞くと、白石は苦笑いした。


「まぁ、結局は人の作り話やから、信じるか信じひんかは人によるんやけどな。」

「そんなもんかー…。」

「でな、話戻すんやけど。」


白石は私が他の事に興味を持つ前に話を戻す。


「じゃあ、何で2回死ぬと思う?」

「2回死ぬ機会が有るから。」

「まぁ、合っとるっちゃー合ってるけども…。」


白石は乾いた笑いを浮かべながら、違う違う、と云った。


「ホンマは殺されんねん。」

「…嘘、」

白石には余りにも似合わないその単語に少々驚きながら、何とか返事をした、続きを聞くのが少し怖いが、ぐっと堪えて白石に更に問い掛けた。


「何で殺されなきゃならないの?」

「まぁ、普通に考えたらそう思うやろな。」

「…で、結局どういう意味?」


私が痺れを切らして話を切り出すと、白石は、まぁまぁ、と云い私を宥める、焦らされるのとか嫌いなんだよなぁ。

そんな事も考えながら白石に詰め寄って催促した、すると、白石はへらへら笑いながら、分かった分かった、と云ってまた話始めた。


「じゃあ、人間が死んだらどないする?」

「いや、どないする?じゃないじゃん。」

「まぁ、騙されたと思って。」

「…そりゃ、普通は御葬式して、火葬して、お墓に入れるんじゃないの…?」


私がそう云うと白石は、正解、と左手でまるのサインを作った。


「先ずはそれで1回死ぬ訳や。」

「えー、何かもう良いよー。」


私が嫌そうに云うと、白石は、せやけどそしたら回数足らんやん、とこの場には似合わない笑いを見せながら云う。

私は、それもそうか、とだけ云い、話の続きを待った。


「で、2回目のはな、」

「うん。」


しんと静まり返る教室の中に、白石の声だけ響いた。


「誰からも、何からも、全ての物に自分が忘れられたら、なんや。」


白石の言葉は、私の中にすっと入ってきた、理解力が低い私だけど、可笑しい位の早さでその言葉の意味を理解した。

何か云うべきなんだろう、けど、声が出ない、言葉が見つからない。

何で、何で、そんな顔してるの。

気が付けば私は白石を抱き締めた、机越しで、腰に少し角がぶつかったとか、けどそんな事気にならなかった、今、白石を掴まえてないとこのまま何処かに行ってしまいそうな気がした。

白石は今どんな顔してるかな、さっきよりはマシになったかな。

私は抱き締めた勢いとは反対に、そろそろと白石の顔色を伺った、先程よりは少しばかり変わったものの、やっぱりまだ何時もの白石とは違う気がした。

…気まずい、非常に気まずい、第一私何してるんだろう、クラスメイトの男子抱き締めたりして…だ、誰にも見られてないよね…?心配になってキョロキョロと辺りを見回す。

奇跡的に誰もいないし、廊下にも人の気配はしなかった。

私が一人安堵していると、その様子を見ていたのか白石は声を押し殺して笑っていた。


「ちょ、何で笑ってんの…!」

「いや、何かオモロイなぁって思って。」

「オモロイって…、私は全く面白くないし…。」


そう云いながらも更に白石は笑うから、私はむっとしたのを悟られないように上を向きつつ、白石から離れようとした、しかし、何時の間にか背中に回された手のお陰で離れられない。

普段こういうスキンシップとかに慣れていない私は、流石に恥ずかしいので離して貰おうと白石の方を見ようとしたが、其れよりも早く上がってきた言葉によって、私の行動は阻止されてしまった。


「俺の事、忘れんとってな。」

「…。」

「…返事してや。」

「え、あ、うん…?」


さっきまで笑っていた白石がまた真剣な表情になって、切なそうな声で云うから少し反応が遅れてしまった。

其れからお互い黙って、少し静かになった。

私は、またさっきのしんみりとした空気になるのを避けるため口を開いた。


「私も、」

「ん?」

「私の事も、忘れないで、ね。うん…。」


そう云って白石の方を見ると、私が云うのを待っていたかのように、はにかんだ。


「忘れへん、絶対。」

「私、2回も死にたくないし。」

「おん。」

「じゃあ、約束。」


その約束は子供じみてて、寂れてて、確実なモノではないけれど、絡めた小指を歌に合わせて小さく揺らす、歌が終われば、どちらからともなく笑う、窓から見える空には一つだけ星が光っていた。

まだ、小指は繋がったままだ。

2011/07/03
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