別に特別な祝福の言葉なんか要らないよ。
どうせ廃れて、忘れて、終わりだから、だけど、君のは、君のだけは、何時までも消えないんだ。
低血圧低体温のお陰で、朝はホンマにダルい、今正しく誰にも会いたくない気分やわ。
音楽聴いといてもテンション上がらへんし、取り敢えずイヤフォンを耳から外す、すると、ぺちんっという乾いた音をたてながら俺の背中に小さな衝撃が伝わった…朝の気分悪い俺に、こんな事する奴は彼奴しかおらへん。
何て考えながら振り返れば、その音に見合う位の小さな先輩が現れる。
俺が振り返ると、その小さな先輩はニコニコ笑う。
「財前、おはすたしー!」
「おはよう御座います、名前先輩。今日もキモいっすわ。」
「うん。分かってるから云わなくて良いよ。」
そう笑いながら俺の横に並んで歩く名前先輩。
先輩何センチや云うてたっけ。
俺が167センチやから、ぱっと見10センチは違う。
本人曰く"伸びる兆しが無い"らしい。
まぁ、何かそんな気はするわ、俺は鼻で笑った。
「ちょっ、何で今鼻で笑ったし。」
「いや、別に俺は名前先輩は小っさいなーて思っただけっすわ。」
「むぐぐ…!人が気にしている事を、よくもぬけぬけと…!」
そう云うと名前先輩は力が全く入ってへん位軽い拳で、俺をぽかぽか殴ってきよる。
何や、小動物相手にしとるみたいやわ。
俺は名前先輩の攻撃(とも云わへんか)を気にせず、頭をぺしぺし叩いたった、其れに応戦しようと名前先輩も殴るん止めて、必死に俺の頭に手を伸ばしよるけど、たってへんのやけど。
名前先輩の手は、ずっと空を切っとった。
暫くすると名前先輩は諦めたんか、手を引っ込め俯いた…流石に遊び過ぎたか。
少しだけ申し訳無くなったから、ちょっと屈んで名前先輩の顔を覗き込もうとした、すると、いきなり手が伸びてきてぺしっと軽い音がした。
名前先輩を見ると、嬉しそうにニヤニヤしとった、やられた。
俺が不機嫌そうにしとると更に名前先輩は笑った、もうニヤニヤやのうてドヤドヤや、何かムカつく。
仕返しに名前先輩の柔らかい頬っぺたをむにっと摘まんで引っ張る。
「いひゃいよ、じゃいじぇん。」
「俺の方がもっと痛かったっすわ。」
「何で!?しゅごくかりゅくひゃひゃいたのに!」
「心が傷付いた。」
「え、」
冗談でそう云うと、名前先輩は心底驚いたように俺を見た。
「何や、その顔。」
「いひゃ、別に…何も…。」
「どうせ名前先輩の事やから、キャラ違うー、とか思ったんやろ。」
「そそそそんひゃ事にゃいよ!」
頬っぺた摘まんどるからちゃんと喋れてへんけど、あからさまに動揺しとる、まぁ、名前先輩嘘つくの下手やからな…。
謙也さん並みに下手や。
いや、寧ろ謙也さんより下手かも知らん、別に関係あらへんけど。
そんな風に考えていると、名前先輩が俺の手をぴしぴしと叩いて、はにゃしぇっ、と云っていた。
うまく喋れてへん名前先輩も面白いけど、流石に名前先輩の頬っぺたが目に見えて赤くなってきたので、ぱっと手を離した、名前先輩は俺が手を離すとそろそろと自分の頬っぺたに手を添えて擦った。
ホンマこの先輩からかい甲斐が有るわ、なんて俺が小さく笑っていると、気が付けば名前先輩も笑っとった。
何が可笑しいんか分からんけど、まぁ、良えか。
何となくツッコむのもアレやったし、俺はそのまま歩き出した、せやけど、何時もなら直ぐに追い掛けてくる名前先輩が何時まで歩いても隣に来ない。
よく足音を聞いたら、ちっとも歩いてへん。
気になって名前先輩の方に振り返りる、やっぱりさっきの所から全然動いてへんし、俺は少し呆れながらも名前先輩を呼んだ。
「名前先輩、早せな遅刻しますよ?其れともしたいんすか?」
「ハッピー、バースデー!」
「…………は?」
…何云ってんねやろ、そう思って携帯で今日の日付を確認する。
あ、何や、今日俺の誕生日やん、忘れとった。
俺が呆けとると、名前先輩はにこにこ笑いながら小走りで俺の隣に並んだ、ホンマ、ガキみたい。
先輩の癖に背小さいし、後先考えんし、阿呆やし、鈍くさいし、考えとる事分からへんし、直ぐコロコロ表情変わるし、まぁ、底無しの明るさとか、影ながら頑張ってるとかは、案外好きやけどな、なんて、云うたらん、名前先輩調子乗るし。
俺はそんな事を考えながら、ぼそっと呟いた。
「おおきに。」
「ん!」
俺の小さなお礼に大きな声で返す名前先輩。
俺、多分、名前先輩、好き、やけど、まだよう分からへんから、もう少し悩む事にする。
何や、俺も大概阿呆やわ。
俺は短く笑って、名前先輩の小さい頭を撫でてみた。
2011/07/20 Z.Hikaru HappyBirthDay.