チクチクチクチク。

チクチクチクチク。

君はただ次の試合用の小物を作っている。

こっちには見向きもしない。

久し振りに二人で一緒にいられると思ったのに、沢山、沢山話せると思ったのに。

…私から話し掛けたら構ってくれるかも、何て淡い期待を抱きながら君の名前を呼ぶ。


「ユウジ。」

「………。」


反応無し、もう一度呼んでみる。


「ユウジ。」

「………。」


やっぱり反応は無い。

流石に淋しく、いや、虚しくなってきた。

…何しに此処まで来たんだろう。

こんな事なら家で一人でいた方がまだマシだよ。

…帰ろう、かな…。

じゃあ、もう一度ユウジを呼んで無反応だったら帰ろう。

…私が帰ったら、ユウジはどう思うのかな…。

そんな事を考えながら少し息を吸って、また君の名前を呼ぶ。


「ユウジ。」

「………。」


…よし。帰ろう。

私は座っていた椅子から立ち上がって

ドアの方に向かって歩き出す。

「…何処行くんや。」


君の声と同時に、私のズボンの裾がピッと引っ張られる。

ユウジのその行為に驚いたのか、中々声が出ない。


「何で何も云わへんねん。」


ユウジの声のトーンが少し落ちる。

さっきとは立場が逆転している。

何も云わない私に痺れを切らしたのかユウジは私のズボンの裾を離し、小物を床に置いて立ち上がった。

頭一つ分位違う身長のせいで、上から見下ろされている様な感じがする。(実際見下ろされている。)

何か、云わなきゃ…少し口をパクパクさせて、やっと出て来た言葉は


「…か、帰る…。」

「…あ?」


…完全に云う言葉の選択を間違えた、絶対ユウジ怒ってる。

チラッと前髪の間からユウジの顔色を伺えば、私が知っているユウジの不機嫌な顔で一番眉間に皺が寄っていた。

確実に怒ってらっしゃる。

どうしよう、本当に帰りたい。


「…俺が話すん苦手なん、自分…分かっとるやろ。」


私の頭の上でポツリと殆ど聞き取れない位の、弱々しい声が聞こえた。

私が顔を上げると、其処には耳まで真っ赤に染まったユウジの顔があった。


「俺は、自分と一緒におるだけで無茶苦茶楽しいし、嬉しい、けど、名前は違うんか…?」


嗚呼、私は最悪な奴だな、大好きな人に、こんな悲しい顔させるなんて。

そっとユウジの頬に触れる。

ユウジは少し驚いたけど直ぐに何時もの顔に戻った。


「…私も、ユウジと一緒だと凄く楽しいし嬉しいよ。ただ、さっきはあんまりユウジが構ってくれなかったから、拗ねてただけだよ。」


素直な気持ちを、私の本当の気持ちを、一番大好きな君に知って欲しい。

私がそう云うとユウジは少し安堵した表情をした後、また眉間に皺を寄せる。


「自分、拗ねる理由簡単過ぎやろ。」

「ユウジだからだよ。」

「なっ!何云うてんねん!!死なすど!!そんなん云うても全然可愛くないわ!死なすど!!大体自分そんなキャラや無いやろ!死なすど!!」


そんな君のマシンガントークですら愛しく思う私は、

君中毒。


2011/04/07
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