君が笑えば、私も笑う。

きっと、君以上なんて存在しないんだ。

夕方の坂道に一台の自転車が2人を乗せて走っていた。


「ユウジー、もっととばしてよー。風が感じられないんだけどー。」

「うっさい!名前が重いからペダル重ぅてせんないわ!」


前で自転車を漕いでいる男子が声を荒げて反論した、しかし皮肉を云われた事など気にせず、後ろで立っている女子は鼻歌を歌っている。

そんな女子を男子は呆れた様に溜め息をついて自転車をとばす事にだけ意識を集中させた、女子は少しばかり早くなった自転車の速度に小さく声を漏らし、男子の肩を掴み直した。


「気持ち悪い声出すなや、気持ち悪い。」

「ちょっ!幾ら何でも酷くない!?」

「お前M属性やろ?罵られてゾクゾクする変態やん。」

「違うわ!第一其を云うならユウジだって十分変態じゃん!」

「何やと!何処がやねん!」

「小春に罵られて突き放されてゾクゾクしてるんでしょ?」

「阿呆!俺がMになるんは小春にだけや!」


自信満々に云うユウジに対して名前は盛大に溜め息をついた、そんな名前の溜め息を聞いてユウジは、自分めっちゃ不幸なんやから、溜め息ついたらもっと不幸になんでーと馬鹿にした様に云った。


「大きなお世話ですわー。」

「何で財前が入ってんねん。」

「格好良いから。」

「訳分からんわ。」


其れだけ云うとユウジはまたペダルを漕ぐ足に力を入れた。

暫くお互いが無言でいると、ユウジが何か云いたそうに口をもごもごさせていた。

名前は、耳元で聞こえる風の音をなくそうと取り敢えず立っている体勢から荷台に座ってみた、まぁ、そうすると必然的にユウジに抱き着くようになる、名前はユウジの背中に額を当てた。

すると、不意に声を掛けられた。


「名前、俺、な。」

「うん。」

「あー…、あんな、」

「?」


ユウジは頬を掻きながら、何やら云い難そうに口をモゴモゴさせついた、そんなユウジを名前は不審に思いユウジの背中を急かす様に軽く小突いた。

するとユウジは何かを決めた様にぽつりと溢した。


「俺、好きな、奴、出来てん…。」

「…へ?」


名前の間抜けな声が静寂を揺らした、その静寂とは裏腹に名前の頭の中は煩い程にごちゃごちゃになっていた。

いや、別に良くない?ユウジに好きな娘が出来ても、私には、関係無いし、うん、そうだ、関係無いんだよ、だから、ショックとか受ける必要無いし…というか私、ショック、受けてんの…?

名前が何も云わず、気難しい気配を纏っている事に気付いたユウジは、名前のに、何ぼーっとしてんねん、と云った、しかし、今回は全く反応が帰って来ない、少しばかり心配になったユウジは自転車を止め名前の方に振り返った。


「…何で、そないな顔してんねん。」


ユウジが振り返った先にいたのは何時もの名前ではなく、淋しそうに眉を下げて口をきつく結んでいる名前がいた。

名前はハッとしてばつが悪そうに笑顔を作った、そんな名前を見てユウジは一瞬眉を潜めたが、直ぐ何時もの表情に戻った。

それからお互い何も云わず、只どちらが話し出すのを待っていた。

このままだと埒が空かないと思ったなか先に口を開いたのはユウジの方だった。


「そ、それでなっ、」


無理矢理場を盛り上げようとしてユウジは先程の話を持ち出した、名前は態とらしく笑ってユウジの話を聞く。


「俺、今から告白しよう、思ってんねん、やけど。」


ユウジの宣言に少しばかり動揺したが名前は悟られないように振る舞った。


「そ、なんだ。じゃあ、私独りで帰るよ。ユウジの迷惑だし。うん。じゃっ!」


そう云うと、名前はそそくさとその場を後にしようとしたが、ユウジの制止により其れは叶わなかった、既に自転車の荷台から降り、ユウジの前を歩いていった名前は、後ろにいるユウジの表情が気になった。

声色的に、怒ってる…何で、怒ってるんだろう私何かしたかな、名前は数秒前の事を必死に思い出すが、幾ら遡ってみても思い当たる節が全く無い。

名前が独り苦い顔でいると、ユウジは少しばかり笑った様に見えた、するとユウジは名前に言い聞かせる様に話始めた。


「俺、今から、告白…、すんねんけど、」

「けど…?」

「何や…、自信、無いねん。」

「…。」


ユウジの口からそんな台詞が出て来るとは思っていなかった名前は驚いて口をぽかーんと開けた。

そんな名前を見てユウジは、阿呆が更に阿呆に見えてんで、と云った、だが、肝心の名前には届いていなかった。

名前は数秒して我に帰り、頭を振ってにおずおずと聞いた。

「自信が無いから、何?」

「せやから…、お、お前、の勇気、分けろ。」


そう云いながら俯いてしまったユウジ、どんな表情をしているのか分からないけど、多分赤くなっている。

あぁ、分かったよ、私は、君が好き。

でも、今更遅いね。

名前は云い掛けた本音を押し込み、笑いながらユウジに言い聞かせる様に云った。


「大丈夫だよ。ユウジなら、きっとその子の事、大切にしてあげられるよ。私が保証する。」

「何や不安過ぎるわ。」

「私は束縛強いユウジの方が不安だけどね。」


そう云うと、名前とユウジは顔を見合わせて少しだけ笑った。

一頻り笑ってから、ユウジは小さく、ほな、行ってくるわ、と云った。

自転車に跨がるユウジの背中を名前は只見ていた、掛ける言葉が見付からなかった。

シャツの袖を少しだけ捲り、ユウジは名前に軽く手を上げ挨拶をした、名前も軽く手を上げて返して見せた。走り出す自転車。

しかし、直ぐに止まりユウジは直ぐに振り返って少しだけ大きな声で名前に云った。


「しょうに合わへんけど、ありがとな。」


そう云うと、直ぐまた走り出した。

どんどん離れて小さくなっていく背中、追い掛けたい、けど、我慢しなきゃ、だって私はユウジが好きだから、初めて好きになった人には世界で一番幸せになって欲しいんだ、私が我慢する事で君が笑えるなら、其れだけで良い。

だから、君と初めて会った事も、さっき気付いた気持ちも、
アスファルトに染み込んでいく涙も、全部抱えて、今日は眠りにつこう。

明日目が覚めたらまた君と笑えるように。


2011/05/22
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