「あぁぁぁああああ!!」


校舎内に不釣り合いな叫び声が響き渡った。


「な、何や!何かあったんか!?」


名前が学校に着くなり大きな声を出したため、隣にいた謙也は驚き名前を見た、名前は鞄から携帯を取り出し、急いでカレンダーを確認する、そして、顔を青ざめた。

そんな名前に謙也はもう一度恐る恐る聞いた。


「な、何かあったんか…?」

「…今日。」

「今日が何や?」

「蔵の誕生日だった…、」

「…は?」


名前はそう云うと頭を抱えてその場にへたり込んだ。

謙也は焦り、取り敢えず名前を立たせて教室に連れていった。

教室に着き、名前を椅子に座らせるが、名前はまだ頭を抱えていた。

謙也は名前の隣の席に座り、頬杖をつきながらあまりにも名前が哀れなので慰めた。


「そんな落ち込まんで良ぇやん。白石なら1日位待ってくれるんとちゃう?白石も幾ら何でも其処まで器の小っさい男やないやろ。誠心誠意謝れば少しは何とかなるんやないか?」

「…うん。」


謙也に励まされ、少しだけ立ち直った名前は軽く自分の顔を叩いた、叩いた後、謙也も軽く叩いた。


「いだっ!何で俺が叩かれなアカンねん!?」

「ごめん。ノリ。」

「訳分からんわ!」


名前はそう云うと立ち上がり、小春ん所行って来る、と云って教室から出ていった。

1人残された謙也は、頬を擦った。


「小春ー、聞いてよー!」

「何や、名前ちゃんやん。何かあったんか〜?」

「朝から五月蝿い奴やな。」


名前は小春のクラスに来るなり小春に抱き着いた。


「なっ!お前何してんねん!小春から離れろ!」

「でね、聞いてよ小春ー。」

「俺の話を聞かんかい!!」


名前はユウジの話を聞かず、小春に話し掛けた。


「今日、何の日か分かる?」

「そうやな〜…。なんやったっけ〜…あ!蔵りんの誕生日やない?」

「あ、そういえばそうやな。」

「そうなんだよーでも…。」

「忘れたんか?」

「…正解。」


小春が確信を突いたせいで名前は肩をガックリと落とした、そんな名前を見て小春はぽんっと手を合わせて「うち、イイ事思い付いたで〜!」と声をあげる。

多少小春の変換に疑問を感じつつも名前は藁にもすがる思いで小春に聞き返した。


「どうすれば良いの?」

「名前ちゃんがプレゼントになれば良ぇんや〜!」

「…は?」


その場にいた全ての人間が驚き、此方を伺っている。

名前はハッと我に帰り、無理です!と返した、しかし小春は、名前ちゃんなら大丈夫やろ〜。なぁ、ユウ君?と笑いながらユウジに同意を求めた。


「はひ!?あ、あぁ!小春が云うんやから、良いんとちゃうか!ま、ブスなのは否めへんけどな!!」

「な、何をー!?」

「ちゅーかユウ君、何で最初どもったんや?」

「いや、べ、別に、何も…。」


ユウジは顔を真っ赤にしながらも、小春に同意した。

小春はユウジに、何ユウ君赤なってんねん、とツッコまれていたが曖昧に返していた。

そんなユウジと小春のやり取りすら耳に入らない程名前は混乱していた。

名前は頭をぶんぶんと振り、"自分プレゼント計画"を消し去ろうとした、だが、そんな名前を気にせず小春は名前の手を掴みグイグイと引っ張って何処かに行こうとした。


「ちょ、ちょっと!何処行くの!?」

「更衣室や、更衣室。」

「何しに!?」

「勿論、コスプレするために!!」

「最初の概念と違う!」


そう云いながらも、更に進んで行く小春に諦め、また他に方法が無いため仕方無く小春の成すがままになった。


「そういえば、ユウ君。」


ユウジは小春の隣に並び歩いていたが、小春に問い掛けられ小春の方を見た。


「この前、うちに作った服有ったやろ?」

「あぁ、アレか。其れがどうかしたんか?」

「今有る?」

「有るけど…まさか、こいつに着させるつもりか?」

「当たり前や〜ん!」


ユウジは明らかに嫌な表情を作り小春の申し出を拒否した。


「い、嫌や!やって、アレは、小春のために、夜なべして…。」

「有るんなら出しぃ。」


小春に詰め寄られ、ユウジは冷や汗を浮かべながら、ゆっくりと頷いた。


「ほな、ユウ君が取りに行っとる間に行こか〜。」


小春はかなり楽しそうに名前の手を引いていった。

更衣室に着くなり名前は中にぽいっと投げ入られた、そして名前と一緒にユウジが作ったであろう服も入って来た、小春は、ほな、早ぅ着替えてな〜、と云い、更衣室には名前しかいない状態になった。

名前は渋々投げ入れられた服を見ると、驚愕以外の何者でもない感情が名前を襲った。

何と目の前の服は、短いスカート、フリフリのレース、腰の後ろには大きな可愛らしいリボン、しかもオプションとしてかは分からないが、これまた可愛らしいレース付きのカチューシャが有った。


「メ、メイド服…!」


名前は真っ赤な顔で更衣室のドアの前にいる小春に云った。


「小春、こんなの無理だよ、着れない、恥ずかしくて死ぬ、」

「せやかて、名前ちゃん。其れ着ぃひんかったら蔵りんへのプレゼントどないする気なん?蔵りん哀しむやろな〜…。まさか自分の彼女からプレゼント貰えへんなんて…もしかしたら、哀し過ぎて別れる、な〜んて事も…。」

「!?」

「まぁ、しゃーないな…。名前ちゃんが其処まで嫌がるんやったら、うちも強制はせぇへんで。」

「…着ますわ。」

「あら、そう?」


名前は小春の口車に乗せられ、泣く泣く着替えに掛かった。

数分後。

「小春、着たけど…。」


更衣室の中から弱々しく名前が声を出した。

小春は更衣室のドアを勢いよく開ける。

其処には、ユウジの作ったメイド服に身を包んだ名前がいた。


「おぉ〜!やっぱり似合うなぁ!うちの目に狂いは無かったで〜!」

「蔵のためとはいえ、これは…、」


名前は短いスカートを手で押さえ、もじもじしている。

ユウジの方をちらっと見ると、それはもう見事なまでに耳まで真っ赤になっていた、そんなユウジを見て小春はニヤッと笑った。


「ほれ見てみ〜、ユウ君の恥ずかしがりよう!此れで蔵りんも名前ちゃんに惚れ直すで〜!」

「惚れ直すかは置いといて…。ユウジ、似合ってる?」

「な、何で俺に聞くねん!?」


名前はいまだに真っ赤なユウジの方を向いて、くるりと回って見せると、ユウジは赤い顔を更に赤くさせながら乱暴に云った。


「阿呆!そんなん全然似合って無いわ!死なすど!それに短いスカートも可愛く無いわ!死なすど!カチューシャも全然合ってないわ!死なすど!」

「ちょ、酷!3回も死なすどって云った!」


名前は傷付いて、落ち込んだが小春が、アレがユウ君なりの誉め言葉やから許したってな〜?と云われたので、取り敢えずは立ち直った。


「さて。何や、見てみるとメイド服だけや足らん気がすんなぁ。」


そう云うと小春は何処に隠し持っていたのかそれはもう長いリボンを取り出した。


「折角やから、もっと可愛くデコレーションしたるで〜!」


云うが早いか、小春はそのリボンを名前に巻き付け始めた。


「へ、な、何!?」

「まぁ、黙って巻かれとき。」


赤いリボンは瞬く間に名前の体に巻かれる、そして、最後は両手を合わせ蝶々結びをした。


「よしっ!此れで完璧やで〜!」

「な、何じゃこれ…、」

「名付けて、"何でもどうぞ、御主人様はぁと"や!」

「嫌だぁああ!」


名前は半泣きになりながらリボンを解こうとするが、中々解けない、そんな名前を見て小春は今更後悔しても遅いわ〜、と笑った。

名前はユウジに助けを求めようと振り返ったが、其処にユウジの姿は無かった。


「あれ?ユウジは…?」

「ユウ君なら真っ赤な顔でどっか行ったで。」


最後の頼みの綱さえ無くした名前は観念したのか、何も云わなかった。

そんな名前を横目に小春は、ほな行くで〜。因みに蔵りんは謙也君に屋上に呼び出して貰うててん、と云いながらまたしても名前の手を掴み歩いて行く、しかし更衣室から出ようとした瞬間に名前は足を止めた、名前が足を止めた事で、小春は少しだけ後ろにつんのめった。

小春が後ろを見ると、其処には青い顔をした名前がいた。


「どないしたんや、名前ちゃん。蔵りん所行かへんのん?」


「いや、まぁ、行きますけど。行きますけども…。まさか、この格好のまま校内を歩き回るの?」

「他に有らへんやん。」

「え、無理だよ無理、恥ずかし過ぎる!」

「そんなのしょうがないやん〜。それとも名前ちゃんはプレゼント無しで蔵りんに会う気?」

「ぬぅ…。」

「ほら、行くで〜!」


小春の口攻撃に流石の名前も諦め、小春に連れられ白石が待っているであろう屋上に歩みを進めた、でも流石に可哀想なので小春は自分の学ランを名前に掛けた。

しかし、名前は逆に目立っている事は知る由も無かった。


「着いたで〜。ほな、行って来ぃや〜!」


そう云うと小春は名前の背中を軽く押し、前へ押し出した、小春に押され、名前は屋上に足を踏み入れた。

風が強く、あまり前を見る事は出来ないが、気配で誰かがいる事に気付いた名前は顔をあげた。


「名前…、何やその格好…?」


其処には、驚きと戸惑いで混乱している白石の姿が有った、名前は白石を視界に捉えると顔に熱が集中している事が手に取るように分かる、恥ずかしさで白石の顔を直視出来ず、熱い頬を擦りながらも名前は喋り始めた。


「た、誕、生日…、おめで、と、う…。」

「…え?」


途切れ途切れながら祝いの言葉を述べた名前は先程より更に顔を赤く染め、俯いてしまった、そんな名前を白石は只々見る事しか出来なかった。

すると白石は名前の結ばれている両手を握った、名前は驚き、俯いていた顔を上にあげた。

見上げた顔の先にあったのは、恥ずかしそうに、しかし優しく口元を緩め笑っている白石がいた、名前はその白石の笑顔に吸い込まれそうだった。

名前が見惚れている事を知ってか知らずか白石は言葉を紡ぎだした。


「何や、何で名前がそんな格好しとるんか分からへんけど、めっちゃ可愛え。」


白石は名前の耳元で 甘く囁いた、名前は目を強く瞑る、それを楽しむかの様に、白石は更に続ける。


「ホンマに、貰って良ぇんやな?」

「う、うん。」


その反応に満足してか白石は名前に自分の学ランを着させた、名前は少し驚いて白石を見たが、何も云わなかった、暫く見つめ合っていると、影から見ていた小春がくねくねしながら此方に歩み寄ってきた。


「良かったな〜!気に入って貰えたみたいで。」

「あ、はは…、そうかなー…。」


名前は眉を潜めていった。

そんな小春と名前のやり取りを聞かずに白石は名前の手首を掴み、歩き出す、名前はいきなりの事で訳が分からずにいると、強く引っ張られまた耳元で囁かれる。


「誘ったんは自分なんやから、ちゃんと責任取ってな?」


そう言い終わると白石はまた歩き出した、名前は真っ赤になったまま成す術も無く、白石について行った。

握られた手から白石に聞こえてしまいそうな位、心臓は早く打っていた。

そんな2人を見て、小春は小さく、青春やなぁ、と云った事は、誰も知らない。


「そう云えばユウ君、あの服の事なんやけど。」
「あー、メイド服の事か。」
「せや。何であないに名前ちゃんの体にピッタリやったんや〜?」
「は!?そ、そうやったか!?小春の思い違いとちゃうか!?」
「ふーん。そうかー…。」
「せやせや!だ、第一何で俺が彼奴のためにメイド服作らなアカンねん!俺は小春一筋やで!」
「そうは見えへんけどな〜。」「こ、小春〜!」
「そうや。うち、さっきのメイド名前ちゃんの写メ撮ったんやけどユウ君は要らへんよな?」
「え…?」
「あーぁ。こ〜んなエロい名前ちゃんもう二度と見れへんのやろな〜。撮っといて良かったわ〜!」
「あ、の…。」
「何や、ユウ君。まさか欲しいなんて云わへんよな〜?」
「いや…、その…、」
「何や、はっきり云いや。」
「……俺、にも、その写メ…、下、さい…。」
「嫌や。」
「!?」

後日、土下座してやっと送って貰いました。


2011/04/14 S.Kuranosuke HappyBirthDay.
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