俺は君に、君は俺に、依存し合う俺達は、ずっと一緒だから。

校庭に咲く桜は、暖かい陽気に誘われ、我先に固い蕾を開いていく、風に吹かれ舞い上がる桜吹雪を見て名前は物思いに耽っていた。

卒業、か…。

名前は目を瞑り、風に揺れる桜の木の音に耳を傾けた。

数分間程を聴いた後、名前はゆっくりと目を開けた。


「名前、目ぇ瞑っと何考えてたんや?」

「うわぁ!?ユ、ユウジ!?」


名前が目を開けると名前の眼前には何時来たのか、ユウジがいた。


「ちょ、近っ!」

「何や、別に良いやん。俺等の仲やろ。」

「うん。分かったから、お願いだから少し離れて。本当近いんですけど。精神的に苦しいんですけど。恥ずかし過ぎて死ねるんですけど。」


名前がそう云うと、ユウジは渋々名前から離れた、名前は落ち着くために深呼吸をし、少し経ってからユウジに問い掛けた。


「何でユウジが此処にいるの?」

「別に。窓の外に名前が見えたから飛んで来ただけや。」

「…そうですか。」

「おん。せやけど俺、窓から来たんやけど何で全然気づかへんねん。」

「…は?」

「せやから、窓から来たんや。」

「要するに?」

「飛び降りた。」

「マジかよ。」


ユウジはサラッと凄い事を云った、お蔭で名前の思考回路は壊滅状態だった。

頭を抱え溜め息をつく名前を見て、ユウジは「どうかしたんか?」と聞いたが、名前は説明した所でどうにかなる訳では無いと判断し曖昧に返した。

そんな名前をユウジは少し不審がったが、気にせず話始めた。


「名前は教室に戻らへんのか?」

「うーん…。」

「何や皆色々やってたで。」

「私は…良いや。」

「そうなんか。」

「うん。泣き顔とか見られたく無いしね。後、面倒そう。」

「後者が本音みたいやな。」


名前はそう云うと桜の木にそっと触れた。

そして優しく撫でる。

ユウジは名前の隣まで来て、桜の木に凭れ掛かった。


「卒業かー…。」


名前は独り言のように呟き、ユウジはそれに返事をする。


「せやな。何や早かったなー。テニスの事しか覚えてないわ。」

「まあね。あれだけ毎日テニス漬けだったらテニスの事しか覚えてないよね。」

「せやろ?」


名前とユウジは顔を見合わせて笑う。

その後も名前とユウジは話をした。

今までの事、楽しかった事、
悔しかった事、嬉しかった事、そして、これからの事。


「ユウジはあっちの学校なんだ。」

「おん。小春と離れてもぅてん。」

「ユウジは小春離れする良い機会なんじゃない?」

「嫌や!無理や!出来る訳無いやろ!!」

「出来る訳無いんだ…。」


自信たっぷりに云うユウジに名前は呆れながら、それでも笑っていた、そんな名前を見てユウジは少しばかり頬を染めつつ、云った。


「やっぱり名前は笑っとる方がずっと良えな。」

「え?」

「や、やから笑っとった方がブスに見えん云うてんねん!」

「ちょ、酷っ!」


ユウジは照れながら、名前に憎まれ口を叩いた。

ユウジの言葉に少なからず傷付いた名前はユウジを軽く睨んだ、しかしユウジは、悪びれる事も無く、ホンマの事やん、と続けた。

そんなユウジを名前は少しだけつねる。


「いっ!何すんねん!」

「お返しです。」


そう云うと名前は桜の木からそっと離れ、ユウジと距離は有るが向き合う形になった。

ユウジはまた名前の方に歩き出そうとすると名前は、動かないで、とユウジを制止した。

名前はしっかりとユウジを見る。

そんな名前の行為にユウジは少し驚いていたが、何も云わなかった、そして名前は話し始める。


「今まで、本当にありがとね。何か、こんな風に改まって云うのとか慣れないんだけど、ユウジには、ちゃんと云いたかったんだ。本当、ありがとう。」


そう云うと名前は泣きながら笑った。

名前は頬を伝う泪を袖で拭っう、ユウジは名前に駆け寄ろうとしたがまた制止され、足を止めた。


「何で泣いとんのに、そっち行ったらアカンねん。」

「だって、今、ユウジに甘えたら、ずっと離れ、られなく、なりそう、なんだ、もん。」


泪声で必死に言葉を紡ぐ名前。

気が付けばユウジは名前に駆け寄り、抱き締めた。


「ユウ、ジ…っ!離して…っ!」


名前はユウジの胸を叩き抵抗したが、力の差は歴然で、ユウジには全く意味を成していない、名前はぼろぼろと流れる泪を拭わず、ユウジの胸を叩き続けた。


「離してよ…!お願い、だから…っ!」

「嫌や。」

「な、んで…。」

「今離したら、もう戻って来ぃひん気がするからや。」

「…。」


そのユウジの言葉に名前は目を見開き驚いて、泪でぐしゃぐしゃな顔でユウジを見た。

そんな名前の頭をユウジは優しく、くしゃっと撫でて、そしてまた名前の頭を自分の胸に抱き寄せた。

名前を抱き締めながら、ユウジはゆっくりと話始めた。


「俺は名前と離れた無い。せやけど、何時かは必ずばらばらになる事なんか分かっとる。分かっとるんやけど、分かっとるんやけど…やっぱり、心の何処かでずっと一緒におりたいって思ってまう。やけど、今の名前が云った言葉、喜んだらアカンのかも知れんけど、正直、ごっつ嬉しかった。名前も離れた無いって思っといてくれて。"離れられなくなりそう"?そんなん離す訳無いやろ。名前は俺のやねんから。名前が俺の事嫌いになっても、他に好きな男が出来ても、どんなに嫌がっても、絶対に離さん。」


ユウジはそう云うと更に強く名前を抱き締めた。

名前は少し苦しそうにしたが、それでもユウジを抱き締め返した、そしてまた名前は泣き出した、子供の様に声を出して泣いた。

桜の花弁が優しく大空を舞っている。


「いやー、あの時はまだ私も若かったなー。」


カフェには男女のカップルが話をしている。


「今じゃ見る影もあらへんけどな。」


肘を付きながら、少し目付きの悪い男が返事をする。


「失礼な!少しはって云うか、一応今は大人だよ!」

「何処がやねん。態度でかなっただけやろ。」

「違うもん!」

「せやから何処が大人やねん。」

「例えば、背高い所とか、」

「そりゃ、そない高いヒール履いとったら背も高ぅ見えるわ。」

「メイクが上手い所とか、」

「最近の女は小さいのでも上手い奴おんで。」

「夜遅くまで起きていられる所とか…。」

「訳分からんわ。ガキかゆうねん。」

「…。」


女の方が黙りこくってしまい、男はばつが悪そうに、ぼそぼそと云った。


「……まぁ、綺麗にはなったんやないか。」

「本当!?」

「うわ、ウザ。」

「ちょ、酷っ!」


男は肘を付くのを止め、手を頭の後ろで組んだ。


「あーあ。こんなんが俺の嫁とか萎えるわー。」

「だから酷いってば!」

「まぁ、俺以外お前みたいな阿呆引き取る物好きもおらんやろ。」

「…。」

「…な、何や。ホンマに怒ったんか…?」


またしても女が黙り、男の方は流石に云い過ぎたかと思い、女の機嫌を伺った。


「…別に、怒ってないもん。」

「嘘つけ。怒ってなかったら頬なんか膨らまさんわ。」


男は女の頭を、くしゃっと撫でて小さな声で謝った。


「…まぁ、ユウジが云うんだったら別に良いけど。」

「おら、さっさとお前ん家行くで。名前と話とったら考えた事全部忘れそうや。」

「忘れた時は、直球に"娘さんを僕に下さい!"で良いよ。」

「無理や。第一、一人称僕とかありえへん!」

「そうかなー?私は別に。」

「あー、もう行くで!忘れてまう!」

「ん、待ってよー!」


そう云うと名前はユウジを追い掛けた。

季節はあの時と同じ、優しい春。


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