君は私だけのエトワール。

暖かい日差しの下、今日もコートにはボールが弾む音がする。

そんな中、一人の影が忙しなくコートの中を走り回っていた。

四天宝寺中テニス部マネージャー、名字名前。

名前は洗濯物をせっせと部室まで運んではまた取りに行く、という行為を繰り返す、名前の小さな体は山のように積まれた洗濯物で殆ど見えなくなっている、前が見えないため足取りはかなり危うい。


「何や危なっかしいなー…。」


そんな名前を見て、テニス部レギュラー、忍足謙也はそわそわしながらその光景を見ている。


「何してんねん謙也。そわそわしてからに。」

「え?あ、あぁ、白石か。」


謙也は後ろを振り返ると、謙也があまりにも練習に集中していないため、注意を兼ねて話を聞きに来た白石が来ていた。

謙也は白石を見て、少し困ったような顔をした、そんな謙也を見て白石は"なるほど"と云い、溜め息をついた。


「手伝いに行きたいなら、行けば良えやん。皆気にせぇへんで?」

「せやけど、」


白石がそう云うにも関わらず、謙也は後ろめたそうに表情を曇らせた。


「何や、何迷ってんねん。」

「い、いや…。」


白石が問いかけると謙也は少し云い難そうに話始めた。


「前にも今みたいな状況で、もちろん最初俺は名前の事手伝いに行ったんやで?けど…。」

「けど?」

「何や凄い拒否されて"謙也は手出さないで!"って云われてもうてん…。」


話していくうちにどんどん泪目になっていく謙也を見ていると此方までいたたまれない気持ちになってきた白石だが、謙也を励まそうと云った。


「まぁ、名前は謙也に迷惑掛けたく無かっただけかもしれへんやん?」

「…ホンマか?」

「(ホンマかどうかは分からへんけど…。)女子は大抵そんなもんや。」

「…そんなもんか?」

「おん!やから気にせんとき!」


白石に後押しされ、謙也は少しずつ持ち前の明るさを取り戻してきた。


「そうやな…。そうやな!」

「そうやで!やから早ぅ名前を手伝ってき。」


そうに云われ、謙也は嬉々として名前の所に走り寄った。


「頑張りや、謙也。」


白石は謙也の後ろ姿に云うと、初々しい2人を見守った。

謙也が名前に声をかける、名前が振り返る、何やら話始めた2人。

しかし、何故か謙也が哀愁を漂わせながらトボトボと此方に帰ってきた。


「え!?な、何で帰ってきとんねん!?」


何も云わない謙也の肩を掴みぐらぐらと揺らしてみるが、全く反応が無い、しかし、暫くすると独り言のように喋り始めた。


「俺の、手を、煩わせたくない、っちゅーのは、合っとった、けど、俺、邪魔、とか…、」

「…哀れな…。」


白石はあまりの謙也の哀れさに同情し、肩をぽんっと叩いた。


「まぁ、また帰りに聞いたら良ぇやん。同じ電車なんやろ?」

「おん…。」

「そない落ち込まんとき!元気出しや!」


そう云うと白石は謙也の背中を叩いた、謙也の返事は小さかった。

部活も終わり部員達は各々帰って行き、名前は謙也に、じゃあ、帰ろっか、と云った。

謙也は力無く頷いた、そんな謙也を不審がりながらも駅に向かって歩き始めた。

駅に着き、名前と謙也は電車に乗り込んだ、時間が時間なので車内はかなり空いていた。

丁度空いている席を見つけ、名前は謙也に、座る?と聞いたが、謙也は首を横に降り、立っとるわ、とだけ返した、その謙也の返事に名前は少し驚いたが、名前も謙也の横に立った。

アナウンスが流れ、ゆっくりと電車は走り出した。

電車が揺れ、名前は取っ手を掴む、隣を見ると謙也はぼーっと外を眺めていた、そんな謙也を見て名前は心配になり話し掛けた。


「謙也、何かあった…の、っ、」


名前が云い切ろうとした瞬間に電車が強く揺れ、名前はよろめいた、謙也は焦ってよろめいた名前を受け止めた。


「あ、ごめん。ありがと。」


名前は軽く謝り、謙也から離れようとしたが、謙也に肩をしっかりと掴まれて、離れられない。


「あのー…。謙也、もう大丈夫だよ?」

「…大丈夫やあらへんやん。」


謙也はそう云うと名前を抱き締めた。


「なっ!?け、謙也!?」

「何や、何照れてんねん。」

「い、や…だ、だって少ないけど、人、いる、し…。」

「…見せとけば良えやん。」


そう云うと謙也は更に強く名前を抱き締めた、名前は最初こそ抵抗していたが、観念したのか溜め息をつき謙也にされるがままになった。

謙也は名前の肩口に頭を預ける。


「俺は。」


謙也は名前の肩口に頭を預けたまま、小さい声で話始めた。


「俺は、頼りにならへんか?」

「…何でそんな事聞くの?」

「良えから答えろ。」


少し口調が強くなる、謙也は内心しまったと思ったが、同時にどうにでもなれと思い静かに名前の返事を待つ。


「謙也は頼りになるよ。」


名前のその返答に謙也は更に問い掛けた。


「なら何で頼ってくれへんねん。俺が頼りないからやろ?頼りないから、何もして欲しくないんやろ?」


「違う、」


「何が違うんや。今日かて俺が手伝う云うても断ったやん。」

「あれは、」

「俺がおったら邪魔なんやろ?俺より白石とか財前とかの方が良いんや。」

「謙也、話聞いて。」

「嫌や。聞きとぉない。」

謙也は子供の様に首を横に振る。

そんな謙也に名前は呆れたが、突き放すように小さく云った。


「馬鹿。」

「は?」

「謙也の馬鹿。」


名前に云われ、流石に謙也も勘に障ったらしい、名前の肩口から顔を上げ、名前を見た。

そして語気を強くし名前に詰め寄る。


「何で俺が馬鹿扱いされなアカンねん。」

「だって謙也馬鹿だもん。」

「何やと、」

「人の話聞かないで、自分だけ云いたい事云って、本当の事なんか知りもしないで…っ!」


名前は云いながら、大きな瞳に泪を溜める、謙也は一瞬驚いて、名前に触れようとしたが寸前の所で手を止め、そのまま下ろした、名前は鼻を啜りながら、また話し出した。


「そりゃ、謙也は邪魔だよ。」

「やっぱり邪魔何やん。」

「…聞いて。でも、其れはマネージャーは私の仕事だから、私は一応計画を立てて仕事してるの。だから横から入ってきて勝手に何かされると、その後の予定を変えなくちゃいけないの。だから謙也の事断ったんだよ。本当は凄く嬉しいよ?」


名前はそう云い、謙也を見て力無くにへらっと笑った。

ああ、くそ。

そんな名前を謙也は何時の間にか抱き締めた、しかし今回は名前も驚かず、只謙也の好きなようにさせた。

謙也は名前の頭の上で小さく、阿呆、と呟き、ゆっくりと話始めた。


「名前は俺を狂わせる。俺は意識してへんのに。でも名前の事になると、自分が自分やないみたいにむきになって、ガキみたいになってまう。其れも単に名前のせいなんやからな。」


そう云うと謙也は名前を見た、名前は少し困ったような顔をしている。


「勝手に私のせいにしないでよー…。」

「阿呆。ホンマの事や。」

「む…。」


名前は頬を膨らませて拗ねた、謙也はそんな名前の頬をつついた。


「止めてよー。」

「嫌や。」

「…。」


暫く何も云わずに名前の頬を堪能する謙也、名前も慣れたのか、頬を膨らませたりして遊び始めた。

そんな名前を謙也はとても愛しく思った。

謙也は名前の頬をつつく手を止めて、名前はゆっくりと謙也を見た。


「好きや。」

「…へ?」

「滅茶苦茶好きや。」

「な、何云って、」

「例え、名前が俺の事好きやなくなっても、俺は名前の事ずっと好きや。」

「え、あ、」

「…名前は俺の事、どう思っとるんや…?」


真剣な表情で名前に問いかける謙也、名前は顔を赤くして、口をパクパクさせていたが、恥ずかしそうに小さく呟いた。


「そんなの、分かってるくせに、」

「名前の口からちゃんと聞きたい。」


そう云うと謙也は名前を電車のドアに押し付け、両手を名前の顔の横についた、名前は観念し、口を動かす。


「…す、き。」


「…めっちゃ嬉しい。」


そう云うと謙也は名前のおでこに自分のおでこをくっつけて優しく微笑んだ。


「…馬鹿。」

「せやから馬鹿云うな。」

「じゃあ、阿呆。」

「…まぁ、阿呆なら許したるわ。」


そう云い、お互い顔を合わせてまた笑った。

沈みかかった夕日が車内に優しく射し込み2人を包み込んだ。


2011/04/09
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