「あ、一氏やん、めっちゃ久し振りやんなぁ。」
中学卒業以来、一切連絡も取り合っていなかった名字と、たまたま入った居酒屋で偶然再開した。
四、五年振りに会った名字は、学生の頃とは違って、随分と大人っぽくなっていた、こいつこないに綺麗やったっけ?
何や、雰囲気変わったな、って話し掛ければ、一氏はあんま変わってへんねんな、とけらけら笑いながら返した。(自分かて笑い方は学生の頃と同じやんけ)
暫くお互いの近況を話し合い、どうでもいい事を話していると、名字は酒が入っているグラスを傾けながら、ぼんやりしたような口調で俺を呼ぶ。
「一氏〜、自分、物真似得意やんなぁ。」
「まぁ、今はあんまやってへんから、前みたいに完璧やあらへんけど。」
「完璧やなくても良えから、私ん事、物真似で癒してくれへん?」
最近、仕事のストレス半端のうてしんどいねん、なんて言いながら、俺の方に体を向ける。
人助けや思て引き受けたってや〜なんて、らしくもなくべたべた甘えてくる名字に多少動揺しながらも、物真似なんかで疲れが取れるなら安いもんやし、引き受けてやる事にした。
最初こそタレントの真似したり芸人の真似したりして笑わせとったけど、名字は思い出したように口を開く。
「なぁ、まだテニス部の皆ん事覚えとる?」
「最近の彼奴等は出来ひんけど、中学の頃のやったらいけるで。」
俺がそう言うと名字は、全然接点なかってんけど、私、忍足君の事めっちゃ好きやってん、ちなみに、恋愛対象としてやなくて一人の人間としての考え方とかが好きなだけやで?あ、せやけど、見た目もドストライクやったなぁ、なんてぺらぺら一人で喋り続ける、ちゅーか、こいつ然り気無く謙也フりおった。(まぁ、謙也には彼女おるしな)
名字って案外喋るんやな、とかどうでもいい事を考えながらも、リクエスト通り謙也の物真似をする。
すると、名字はけらけら笑いながら喜んどったけど、ついでにその人で励ましたりとかしてや、っちゅー訳の分からん難題を叩き出した。(完璧調子のっとるやろ、こいつ)
…まぁ、顔色から察するに、毎日しんどいんやろうなっていうのは何となく感じるから、あんま強くは出られへんし、たまには笑って発散させたらな、いつかぶっ倒れるで。(細かい事は全く知らへんけど)
名字が面白そうにこっちを見てるのに気付いて、俺は謙也の声色で言いそうな言葉を並べる。
「名字、頑張り過ぎなんと違うか?無理せんとき。」
「うわ、めっちゃ忍足君やん、うわ、めっちゃ言いそう、うわ、」
「うわ、って何やねん、うわっ、て。」
「関心してんねんて、あー、めっちゃ良え、最高。ほな、次行ってみよか。」
は、次ってまだやるんかい、なんて言う暇もなく名字は、あの人やって、だとかこの人いける?とか一人で盛り上がったけど、別に出来ん事もなかったから、全部やってやった、どや。
リクエストに全部答えてやると名字は満足したように、グラスに残っていた酒を飲み干してから、腕時計に目をやり、ほな、私明日も仕事あるから先に帰るわ、と言って帰り支度を始める。(結局、俺大して飲んでへん)
名字が、またな〜ってひらひら手を振って席を立とうとする前に、ぼそりと呟く。
「まぁ、無理だけはすんな。しんどい時はいつでも連絡せえ。」
すると、名字は少しだけ驚いたような顔をした後、直ぐに締まりのない顔でふにゃりと笑ったかと思うと俺にしか聞こえんような声で話す。
「やっぱり、物真似より本人に言われた方が何倍も嬉しいなぁ。」
そんなん頬染めながら言うなや、何やねん、ホンマよう分からんわ。
名字が先に帰った後、大して飲んでもないのに、何や頭ぽわぽわして飲む気にもなれんし、名字のあの時の表情が全然頭から離れへんし、鬱陶しいわ、何やねんこれ。
今日は早めに寝てまお。
結局、その日は二時間位しか寝られへんかったお陰で俺の方がぶっ倒れそうやったわ、くそ。
2016/02/14