「名前ー!」

「ん?」


今日は一段と元気なテニス部期待のルーキー。

金ちゃんは飼い主を見つけた子犬の様な表情で私に駆け寄って来た。


「名前ー!」

「うん。分かってるし、聞こえてるから、あんまり大きい声で呼ばないでね。」


金ちゃんは私の隣に並んだ後、また大きな声で私の名前を呼んだ。

その声で回りの生徒の視線を一身に受ける私は苦笑いで金ちゃんに云った。

肝心の金ちゃんは、私が云った事をさほど気にせず何かを待っている様だった。


「どうしたの、金ちゃん。」


あまりにも金ちゃんが何時もよりソワソワしているので、私は金ちゃんに問い掛けたら、金ちゃんは驚いて、覚えてへんのん!?と今にも泣き出しそうな目で見てきた。


「え?何が?」


その反応に金ちゃんは、完全に私が今日は何の日か忘れていると思ったらしい。

ショボーンとしている。(
…今、何か金ちゃんの頭に犬耳が見えた)

私は数秒金ちゃんを見た後、また話始めた。「嘘だよ、ちゃんと覚えてるよ。」


私がそう云うと、金ちゃんはパアッと明るくなり「ホンマ!?」と云った。


「せやったら、今日は何の日か分かる?」


金ちゃんは目を輝かせて私に問い掛けた。


「エイプリルフールでしょ?」

「…へ?」

「だって今日は4月1日だし。」


私がまたふざけてからかうと、金ちゃんは、ホンマに忘れてるんや…と云い、トボトボと歩いている。

流石にからかい過ぎたかな…私は少し反省し、金ちゃんに話し掛けた。


「ごめんごめん。本当は分かってるよ。金ちゃんが可愛かったから、からかい過ぎちゃっただけだから。」


私はそう云うと、1週間前から用意していたプレゼントを鞄から取り出して、金ちゃんの前に差し出した。


「ハッピーバースデー、金ちゃん。」


金ちゃんはゆっくりと顔をあげて、眼前に有るプレゼントと私の顔を交互に見た。


「此れワイにくれるんか?」


おずおずと聞いてくる金ちゃんに、私はうん、と返事をする。


「おおきに!めっちゃ嬉しいでー!」


金ちゃんは私のプレゼントを高々と上げ、今開けても良えか?」と聞いてきたので私は軽く頷いた。

ガサガサと袋から取り出し、金ちゃんは声を上げた。


「リストバンドや!ごっつかっちょええ!」

「喜んでくれた?」

「おん!」


金ちゃんはそう云うと、早速リストバンドに手にはめた。

右手を挙げて、回りの人に良く見えるように、振り回した。


「お、何や金ちゃん。かっちょえぇリストバンドやん。」


すると、其処に今来た白石が金ちゃんの手首を見ると問い掛けた。

金ちゃんは走り回るのを止め、白石に向き直り大きな声で云った。


「あ、白石!せやろ!名前がくれたんやで!」

「ふーん。そう云えば今日は金ちゃんの誕生日やったな。」

「そうやでー!白石は無いん?」

「一応用意してんで。おめでとうな、金ちゃん。」そう云うと、白石も金ちゃんにプレゼントを渡した。

金ちゃんはまた喜んでおおきにー!と云いながら、そのまま何処かに行ってしまった。

その場に残された私と白石はお互いの顔を見合わせ、笑った。


「良ぇなぁ、金ちゃん。」


白石はそう云うと、私の制服の裾を引っ張ってきた。

そんな白石を見て、私は白石にもあげるよーと云った。


「でも、私の本命は金ちゃんだから。」

「…え?名前って年下好きやったっけ?」

「別に。」


私ははぐらかして、笑った。


2011/04/01 T.Kintaro HappyBirthDay.
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -