「財前君、好きです。」

「…はぁ、」

「財前君は、私の事好きですか?」

「…好きに決まっとるやろ。」


俺がそう答えると満足そうに、にへら、と笑いながら頬を染める名前さん。

…ええ加減にしとかな、ホンマに何かやらかしてまうで、俺が。

心中で溜め息を吐けば、何時の間にか繋がれていた手をぎゅっと握られる。

特に驚く事もなく、その手を握り返すと名前さんが口を開いた。


「今年もこんな風に財前君と一緒にいられて、嬉しいです。」

「大袈裟過ぎっすわ。」

「大袈裟なんかじゃないですよ!」


あまりの剣幕に俺が目をぱちぱちさせると、名前さんは、ハッとして小さく謝る。

如何にも落ち込んでる風の頭を優しく撫でてやれば、今度は恥ずかしそうに頬を染める、天使か。

名前さんが良えんならお持ち帰りしたい位なんやけど。

何て、邪な考えで一杯な俺の気持ちなんて知りもしない名前さんは、おずおずと喋る。


「私、こんな風に男の子を好きになったのも、付き合うのも、その、財前君が初めてだから、」

「そういえば、そんな事云うてましたね。」

「だから…、」


そこで口籠もり歩みを止める名前さんに、俺も必然的に足を止めた。

名前さんの長く艶やかな髪が風に揺れるのを只見ていると、繋がっている手に少しだけ力が込められる。

それをまた握り返して、俺は名前さんが話始めるのを待つ。

名前さんは一呼吸置いてからゆっくりと口を動かした。


「どんな事をすれば良いのか、どうすれば楽しんでくれるのか、全然分からなくて、」

「おん、」

「彼女らしい事も何にも出来てないのに、財前君はまだ一緒にいてくれるから、だから、あの…え、っと、それで、財前、君、ぅ…、」

「ちょお、名前さん、一旦落ち着き。」


あわあわと空いている方の手も使って動揺を体で表す名前さんの頭を撫で、代わりに俺が喋る。


「別に、俺、名前さんに彼女らしさとか望んでへんし。ちゅーか、"らしさ"って云われてもそんなん分からん。」

「そう、ですよね…、」


しゅん、と、耳があれば完全に垂れ下がっているだろうって位に暗い顔をしている名前さんの頭を、くしゃくしゃと少し乱暴に撫でながら続けた。


「只、これだけは云わせて貰いますけど、名前さんは俺には十分過ぎる位、好え人や。今まで恥ずいから云うてなかったんやけど、正直、俺、名前さんにベタ惚れやからな。せやから、あんまり俺の好きな人を悪く云わんといて下さい。」


ほぼ一息でそう告げると、名前さんが真ん丸い目を更に真ん丸にして、ぽかんと何とも間抜けな顔をしていたもんだから思わず吹き出した。

俺が笑った事によって、やっと現実に戻ってきた名前さんは今度は耳まで真っ赤にして俺の胸を叩いてくる。

そんな事、よく恥ずかし気も云えますね!とか場所を弁えて下さい!とか何とか色々云われて軽く耳を塞いでいたけど、最後に小さく呟かれた言葉は、耳を塞いでいても俺の鼓膜を揺らした。

(これ以上、ドキドキさせないで)


2013/07/20 Z.Hikaru HappyBirthDay!
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