現在、三月十六日、午後十一時五十六分。

日付を越えるまでは、残り四分。

今俺は、携帯を目の前に置いてじっと正座をしている…ざっと三十分程度。

何コレ何コレ何コレ。

え、俺、期待し過ぎやろ、恥ずっ!

せやけど、自分の誕生日前日のこの時間は大体皆こんな感じになるやろ?俺だけやないよな?

うわーもう、明らかがっついとるみたいで嫌なんやけどー…。

何て悶々としながら、後ろにごろんと転がった。

所々染みの着いた天井を見上げる。


「…メール、くれへんかな、」


ぽつり、とそんな言葉が宙を舞って消えていく。

虚しい、序でに女々しい、辛い。

あー…こない悩む位なら、いっその事、此方から何かしよかな、電話とか。

俺は体を起こして携帯を手に取る。

ぽちぽちとボタンをつついてディスプレイに出てきた名前に、胸の辺りが痛くなった。

"名前"

三ヶ月前から付き合い始めた俺の彼女。

真面目であんまり笑わへんけど、その笑った顔がめっちゃ可愛え。

名前の笑顔は太陽みたいにポカポカして心地良い。

…やなくて。

うーん…どないしよ。

此方からメールとか電話とかしても良えけど、期待しとる感半端無いやーん、何て思われんのも嫌やし…あれ、そもそも名前って俺の誕生日知っとったっけ?

…いや、メアド交換した時にプロフも送った筈やから知っとるよな、多分。

パタンと携帯を閉じて、はぁ、と溜め息を吐く。

出来れば、テニス部の皆より早くメール欲しいなー何てー…。

また一つ溜め息を吐きながら顔をあげて時計を見た。

後、四十秒程で日付が変わる。

どくどくと心拍数が上がっていく。

うわーうわーどないしよー、いや、もうどないしようもないんやけど、どないしよー…!

一人で焦る俺なんか気にも止めず、時間は進んでいく。

俺は落ち着くように胸に手を当てて、ただただ自分の携帯を見つめた。

残り、五、四、三、二、一…。

日付を越えて十秒経過。

目の前の携帯は震えない。


「…お、おめでとう、俺…、」


取り敢えず、おめでとう、俺。

…ま、まぁ?零時丁度に生まれた訳違うし?逆にこないな時間にメールとか送られてきても、迷惑なだけやわー、寝かせえっちゅーねん!あっはっはっはー!

ちらりと携帯を見る。

せやけど、何にも変わりはない。

…やっぱり、名前にとって俺の存在は、彼氏なんて良えモンやなくて、唯のよく話す同級生なんかな。

そういえば、俺が告白した時も名前は苦笑いして頷いただけやったし…ハッ!それや!

名前優しいから俺が傷付かへんように断り切れんかったんじゃ…せやから、誕生日忘れて…いや、これ以上は考えんとこ、流石に辛いわ…。

〜♪〜♪


「うぉっ!?」


俺が一人落ち込んどると、突然携帯の着信音が鳴った。

ま、さか。

急いで携帯を取り、ディスプレイを見る。

”新着メール一件”の文字に心臓が面白い位はね上がる。

落ち着け、落ち着け、俺。

あんまり期待したらアカンで、これで名前やなかったら傷付くのは誰でもない、俺や…せやから過度の期待は掛けず、ほんのりドキドキするだけにしとくんや、そうでもせんと、あまりのショックでこの世に一片のDNAも残さず消えてまう気がするわ…。

よし、いくで…!

携帯を操作する手が少しだけ震えるけど、何とかメールを開く。


from:谷山
件名:non title
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忍足ハピバー。
一応、空気読んで
時間ずらしたんだけど
名前からメール来た?(笑)
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「谷山ああ…っ!」


こいつだけは…こいつだけはああ…!

谷山が女子やなかったらブン殴っとるで…ちゅーか、この笑いは何やねん、俺に名前からのメールは来る訳無いっちゅー意味の笑いか、そういう意味か。

畜生…悔しいけど云い返せへん。

俺は深い溜め息を吐きながらベッドにダイブした。

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その後も、ぼちぼちメールが届く。

名前からは何時まで経っても届かない。

時計を見れば、一時もとうに回っていた。(マ、マジか…)

…もう諦めて寝よう。

明日他校との練習試合入っとるし、これ以上起きとっても寝不足で回りに迷惑掛けるだけやし…もしかしたら、朝、名前からメール来るかも知れへんし…。

あー、くそっ!

余計な事考えんと寝よ寝よ、寝て忘れよ。

俺は、頭まですっぽりと布団を被り重い瞼を閉じた。

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〜♪〜♪

うっすら目を開けて音の鳴る方を見ると、携帯のサブディスプレイがピカピカしながら軽快に鳴っとる。

この着信音…電話かいな、誰やねん、こんな夜遅うに…。

安眠を妨害されて多少苛立ちながらも、携帯を手に取り電話に出た。


「…もしもし、」

「あ…謙也、君…です、か?」

「…へ、ぅわっ!」


電話の向こう側から聞こえてきた声に驚いたせいで、ベッドから落ちた、背中痛い、けど。


「え、何で、名前…な、何か、あったん?」


うわ、声聞いただけやのにめっちゃドキドキする、さっきまで寝とったのが嘘みたいに視界が冴えとるし。

ぱっと時計を見ると、二時を少し過ぎとった。

…真面目な名前がこないな時間に電話掛けてくるなんて、さっき吃驚し過ぎて勢いで出たけど、ホンマに何かあったんやろか。

ま、まさか俺の誕生日…いや、べ、別に期待なんかしてへんしっ!

俺は一呼吸置いてから口を開いた。


「どないしたん?」

「あ、の…ごめん、なさい、」

「は?」


突然謝られて、ちょっと怒っとるみたいな声出たけど俺はそのまま続けた。


「な、何で急に謝るん?俺、何にも怒ってへんのやけど。」

「…言い訳がましくなるんですけど、ちゃんと、準備してたんです、」


名前の云うとる事が理解出来ひんのやけど…せやけど、一応名前の話を最後まで聞こう、聞くのはその後でも大丈夫やろ。

何て一人で考えとると、不安そうな声で聞いてます?っちゅーて云われ、慌てて返事をする。


「それで、時間経つの待ってたら、何時の間にか…ね、寝てて…さっき起きたんですけど、今更こういう事するの迷惑かなって…でも、今、どうしても謙也君に云いたい、事、あったから…、」

「おん、」


最後の方は、最早独り言みたいに消え入りそうな声で。

携帯を持つ手とか、名前の声を捉える耳とか、体全部がどくどくと急速に熱を持ち始める。

なぁ、俺、期待しても良え?


「一番じゃ、ないと思うけど、」


名前が小さく息を吸う音が鼓膜を揺らす。


「誕生日、おめでとう。」


う、わ…何これ、思っとった以上に、嬉しいんやけど。

ちゅーか、名前可愛過ぎて死にそう。

俺が無言のままでおったからか名前は慌てて、やっぱり迷惑でしたよね、とか、これだけなのに電話してごめんなさい、とか云うとる。

何やそれ。


「俺は、」

「え?」

「俺は、待っとった。名前からこんな風におめでとうっちゅーて云うてもらえるの。」


せやから、謝らんといて?

そう云えば、申し訳無さそうに笑いながらも、待っててくれてありがとねなんて云う名前。

有り難うなんて、此方の台詞やし!

あー、ヤバい、今直ぐ名前に会いに行きたい、会ってぎゅーってしたい。

アカン?って聞いたら、補導されますよ!っちゅーて結構本気で怒られた。


(やって、俺、今なら何でも出来る気するもん!)
(だからと云って、法に触れるような事はしちゃいけません)
(しゅん…)
(…朝、迎えに行きますから、それまで待ってて下さい)
(!お、おんっ!)


2013/03/17 O.Kenya HappyBirthDay.
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