只今私は、とんでもない事に巻き込まれています。

遡る事、30分程前の事。

私は最初、課題に取り組んでいた、本当は昨日しなければいけなかったのだが、夜に千歳と長電話をしていたせいで、そのまま寝てしまったのだ、だから今かなり焦っている。

私が黙々と課題をしていると、謙也が横から「何してん?」と話し掛けてきた。


「課題。昨日出来なかったから。」

「げー!そんなん思い出ささんといてくれ!」

「と云うことは、謙也してないんだ。」


私は苦笑いしつつ、課題とにらめっこを続けた。

謙也は、私の前の席に後ろ向きに座り課題をする私を見ていた。


「ちゅーか何で昨日出来ひんかったんや?」


今考えれば、この返答がいけなかったのだ、もっと他に云い方が有った筈なのに、課題をしていたため正確な説明が出来なかった。


「千歳のせいだよ。千歳と昨日の夜、してたから。」

「…は?」


私が云った事が理解出来ていないのか謙也は顔を引きつらせていた。


「え?何か私変な事云った?」


そう謙也に問いかけると、謙也はハッと我に帰り慌てて返事をした。


「い、いや!別に、何も変やないで!ま、まぁ名前も、うん。そういう年頃やし、せやな…!そんなもんやな…。」


最後の方は、殆ど自分に言い聞かせている様な感じで、謙也は少し頬を染めながら、じ、じゃあ課題頑張りや…とだけ云い、教室から出ていった。

私はそんな謙也の行動に不信感を覚えたが、取り敢えず課題に取りかかった。


「や、やっと終わった…。」


私が課題を終えた頃には、もう夕日が西の方に落ちようとしていた。

私は急いで職員室に課題を持っていき、教室に戻ろうとしたが何やら教室から、声が聞こえてきた。

聞こえたと云っても、声の元が小さいのでハッキリとは聞こえないが、明らかに男子数名の声が聞こえる。

入り難いなぁ…。

私は別にこの後何も無いので、折角だからその男子達の話を盗み聞きする事にした。(面白そうだから。)


「ま、…もそういう事に興味の湧く年頃やし、しゃーないやろ。」

「やけど、…と千歳が付き合うてる話なんか聞いた事無いで?」

「そうやな〜。」

「別に彼奴が誰と何しようと勝手やん。」

「其れ云ったら終わりやろ…。」


何で会話の中に千歳が…いや、しかし、其れにしても、この声、何か全員聞いた事有る気が…。

私はもう少しちゃんと聞こうと教室に近付こうとすると


「名前、何しとっと?」

「ぎゃぁぁぁああ!!!」


突如として現れた人物に驚き、女の子らしからぬ声をあげた。

私のその声に教室にいた男子達が何事かと教室からゾロゾロと出て来た。


「名前!?」

「吃驚したわー…。」

「はしたない声出しよってからに。」

「女の子なんやからもっと可愛く叫ばな〜。」


其処にいたのは謙也、白石、ユウジ、小春の4人で、私は4人をぐるりと見た後、後ろにいる人物を睨み付けた。

後ろにいたのは、白石達の話題にも上がっていた千歳だった。

肝心の千歳はというと、ばつが悪そうに私に謝った。


「そぎゃん驚くとは思ってなかったから…。すまん。」


と軽く頭を下げた。

そんな私たちを見て白石は「良い感じに役者が揃うたな。」と云った。

私は白石の云った意味が分からず、どういう意味?と聞いた。

が、白石は私の質問には答えず、全員教室に入るように催促した。

そして今に至る。

私は訳が分からないまま自分の席に座り、帰る準備をした。

白石達は、私の机の回りにぐるりと立っている。


「あの、何か…?」


あまりに圧迫感が強いため、私はおずおずと喋った。

すると謙也はいきなり確信を突いてくるように云った。


「名前は千歳とどこまでいってるんや?」

「…は?」


何を云ってるんだ…?

私は只驚くしかなかった、多分千歳も驚いていると思う。

数十秒後、私はハッと我に帰り謙也に噛み付いた。「謙也。君は自分が何を云ってるのか分かってるのかな…?」


私は人生生きてきた中で一番黒い笑いを浮かべながら続けた。


「一応もう一度聞くけど、誰と、誰が、何だって…?」


分かり易い様に単語を区切り、謙也に詰め寄ると、謙也は冷や汗を浮かべながら、やから、千歳と…名前…と尻すごみになりながら云った。

私は、そうなんだー…と云い、謙也に笑い掛けた。

謙也はというと、ひきつった笑顔で私から顔をそらした。


「名前、顔は笑おてるけど目は笑おてへんで。」


白石に云われ、私は笑いを表情から消した。


「何や真顔も十分怖いやん。」

ユウジの言葉で私は取り敢えず深呼吸をし、自分を落ち着けた。

兎に角、何故こんな事になったのか説明して貰おうと白石を見た。

しかし白石は「俺は謙也から話聞いただけやから。」と云い、私の質問から逃げた。

今度は私が謙也の方を向くと、謙也は、白石!自分だけ名前の攻撃から逃げおって!と半分泣きそうになりながら白石に訴えていた。

が、私があまりに真っ直ぐ謙也を見たからなのか、謙也はようやく腹を決め、もごもごと話始めた。


「いや、何や…。名前、放課後に課題やってたやん?」

「あぁ、うん。」

「その時に、俺、"何で出来ひんかったんや"って聞いたやろ?」

「多分。」

「何で覚えて無いねん!まぁ、兎に角聞いたんや。」

「…もしかして、その時の返事がいけなかったの…?」


私がその先の事を推測して話すと謙也は、おんと云った。

あの時…何云ったっけ…確か、千歳が何と…か…。


「私の予想が正しければ、昨日千歳としてた事…?」

「昨日?」


私と千歳は顔を見合わせて、昨日の出来事を振り返る。


「別に私は千歳が夜に電話掛けてきて、長くなったからそのまま寝たって云わなかった…?」


私は謙也に確認を取ると、謙也は、ハショり過ぎや!と迷惑そうに云った。

私は一体何を云ったんだ…。

「何や、謙也が云った事と全然違うやん。」


ユウジはつまらなさそうに謙也に云いはなった。


「何が"名前が大人になった"や。名前はまだまだ子供やで。」


白石はクスッと笑い、私の方を見た。

私は"一言余計"とだけ云い、謙也を慰めた。


「まぁ、今回はちゃんと説明しなかった私にも落ち度は有るけど、謙也も次からはちゃんと話聞こうね。」

「…おん。」


此れでこの件は終わった、やっと帰れる、そう思っていると、白石は思い出した様に私に話し掛けた。


「せや。結局名前は千歳と付き合うとるん?」

「…はい?」


私は鞄を持って、如何にも「今から帰ります。」感を醸し出しているのにも関わらず、問い掛けてきた。


「いや、付き合ってないし…。其れよりも帰って良いかな…。」

「千歳はどうなんや?」

「あれ?白石私の話聞いた?」

「俺は名前が良ければ付き合いたいとよ?基本名前はむぞらしかけん。」

「おーい。帰って良い?」

「せやけど名前は千歳の事、友達としか見てないみたいやけど?何やったら俺が貰うで。」

「なっ!白石、名前の事好きなんか!?」

「何や謙也、顔赤いで。」

「そんなんやったらうちやって名前ちゃんの事ごっつ好きやで〜!」


…帰ろうかな。

私はガヤガヤと話している輪から抜けて、帰ろうとドアに手を掛けようとした瞬間、


「「「「名前(ちゃん)!!」」」」


「ひっ!」


皆が私の所に詰め寄る。


「「「「誰が一番好きなんや(と)?!」」」」


今日は頭痛に悩まされそうだ。


2011/04/07
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