「名前、」
「ん?」
「俺ん事好いとう?」
「うん、千里の事"すいとー"よ。」
たどたどしくそう云って綺麗に笑う名前。
そんな名前に両手を差し出して名前を呼べば、何の警戒心もなく此方に歩み寄ってくる。
嬉しいと云えば嬉しいけども、自分以外の他の奴にもこんなにほいほい近寄っていってるのかと思うとちょっと、いやかなり心配。
何て考えている間に名前は俺の胸に飛び込んできた。
少し驚きながらも受け止めると、名前がバッと俺から離れる。
「な、何で?」
「何か違う。」
「え?」
「私が考えてたのは、よく外国映画とかで見る…こう…女の人が抱き着いて男の人がその勢いで回るみたいな…、」
「あー。」
何だ、そんな事か。
てっきり、あの一瞬で嫌われたかと思った。
内心でほっとしていると、名前は俺から少し離れて千歳は少し屈んでねって可愛らしいジェスチャー付きで云った。
俺がほんの少し屈んだのを確認して名前は小走りで此方に駆け寄る。
昨日降って積もっている雪で名前が転ばないかそわそわしていたが、まぁ、本人が楽しそうだから別に良いか。
そう思いながら、ぴょいっと抱き着いてきた名前を抱き締めてくるりと一回転。
する予定だったんだけども、雪で滑り背中から地面に倒れてしまった。(もう何か物凄く恥ずかしい)
幸い抱き締めていた腕の力は緩められていなかったから名前は無事だろうと思って腕の中を見てみると、首に回されていた白くて小さな手は何時の間にか俺のコートの胸の辺りを掴んでいて瞳は真ん丸なのを更に丸くさせていた。(猫みたい)
地面に寝っ転がったまま名前を落ち着かせるようにポンポンと一定のリズムで背中を叩いてやると緊張の糸が解けたらしく、ふにゃりと笑う名前。
つられて笑えば、笑い事じゃないからー!と怒られた。
名前は頬を膨らませながらも俺の上から退ける。(別にずっといても良いのに)
「もう、折角上手く行きそうだったのにー。」
「俺の心配はしてくれんと?」
「千里は元気だから大丈夫。」
「えー?」
今ん言葉で傷付いたばい、何て云ってまた両手を差し出せば小さくて柔らかい手を俺の骨張った手と繋いで一生懸命起こそうとする。
何か名前をぼーっと眺めていると、改めてこの何にでも一生懸命な所とか、本当。
「むぞらしか。」
「へ?むぞ…え?」
まだ方言に慣れていない名前は頭の上に"?"を浮かべて不思議そうに俺を見るけど、その顔も可愛かったからまた笑った。
相変わらず腑に落ちていないような顔の名前を横目に上半身を起こして雪を払う。
ちょっと濡れたけど、まぁ着替えれば良いかって考えながら、はぁ、と息を吐けばやけに白い。
「わー、凄ーい!」
「…おー。」
名前が空を見上げて辺りを見回していたから、俺も一緒に見上げれば頬に冷たい物が触れる。
通りで寒いと思った。
「雪だー!雪だよ、千里ー!」
「そうやね。」
雪がちらほら降る中で子犬みたいに走り回って楽しそうな名前にまた口許が緩む。
すると、俺が笑っとるのに気付いた名前はずんずんと此方に向かって歩いてきた。
流石に怒らせたと思って謝ろうと口を開けば、それよりも先に差し出された雪のように白い手。
呆気にとられてさっきまで言葉を紡ごうとしていた口をポカンと開けて名前を見る。
その理由が分からないのか名前は小首を傾げていたけど、直ぐにまた俺の大好きな笑顔で話す。
「ほら、折角雪降ってるんだし千里も一緒に遊ぼう!」
「…なら、何して遊ぶと?」
本当は着替えに部屋に戻ろうかとか考えていたが、こう可愛く強請られたら断る理由なんかある訳がない。
我ながら名前の事好き過ぎ。
そんな事を思いつつ、差し出された手に自分の手を繋いだ。
(そういえば、プレゼント何が良い?)
(今回も用意してなかとね…)
(いや、千里が何欲しいか分からなかったし…で、何が良い?)
(んー…物は良かよ)
(じゃあ、どうする?)
(来年もこんな風に名前が隣におってくれたら満足たい)
(じゃあ、私の誕生日もそれが良い!お揃い!)
((…もうそろそろ理性切れても良かですか))
2012/12/31 T.Senri HappyBirthDay.