「先輩って肌白いっすね。」
光との付き合いは長いけれども、時々私には理解出来ない事をよくやってくれる。(迷惑ではないから良いんだけど)
今だって、そう云って私のロングスカートを太股ギリギリまでたくし上げ、曝された太股を穴が開くんじゃないかって勢いで凝視する光。
いや、恥ずかしいんですけど。
上げられたスカートを下げようと手を添えれば、何故かその手はふわりと光の左手に包まれた。
光は私を見上げて口を開く。
「ホンマに真っ白。ちょお噛んでも良えですか?」
「え、無理無理…痛いじゃん、」
全力で拒否すると、つまらなさそうな表情をしながら私の太股に頭を乗せて、右手はするりと指を滑らせくるぶし辺りを控え目に触る。
そんな光の頭を私は優しく撫でた。
こうすれば、光は猫みたいに目を細めるから。(私の勘違いでなければ、気持ちが良いのかも知れない)
私が暫く光のふわふわの猫っ毛を撫で回しながら窓の外を見ていると下から、はぁ、という溜め息が聞こえてきた。
溜め息の主なんて探さなくても、この部屋には私と光しかいない訳で。
どうしたの、と声を掛けてみても光は無反応のままで、その代わり繋がっている手に少しだけ力が入った。
もう一度口を開こうとすると、ポケットに入っている携帯が小刻みに震えて私に着信を知らせる。
ごそごそと携帯を取り出し開けば、ディスプレイには白石蔵ノ介と表示してあった。
まぁ、白石だから出ても出なくても別に支障は来さないんだけど、ここは一応出ておこう。
「…もしもし、」
「テンション低いなぁ。」
「うん、で?」
「しかも、何や冷たいし…まぁ、それは置いといて。さっき、オサムちゃんから連絡入って来てんけど、」
それから、今週の土曜に前話してた学校と練習試合する事になっただとか部員から要望が多かったネットの買い換えは最近見付けたスポーツ店にしようと思ってるんだけどだとか延々と話が続いていく。
私はそれを、未だに太股に乗っかっている光の頭を撫でながら聞いていた。(本当はメモ取りたいけど覚えきれない内容じゃないから良いや)
「それで、俺が店の電話番号控えとんやけど、一応自分も覚えとってもらえへん?」
「あー、はいはい。ちょっと待ってよー。」
流石に電話番号まで覚えられる程記憶力は良くない。
私は暇そうにしている光に、机の上に置いてあるノートを指差し口パクで「取って」と云うと、のそりと動き出す光。
おぉ、光が私の云う事聞いてくれるなんて(しかも一回で)珍しいなぁ。
少し見直して瞼を閉じ、光が戻ってくるのを待っていると、ギシ、とベッドのスプリングが細い悲鳴をあげたと同時に肩を押される。
「わ、」
パッと目を開けば、さっきまで頭の上にあった天井とご対面。
あれ、私どうしちゃったんだろう…というか携帯何処行った?
さっきまで右手に握られていた携帯の感覚がなくなり、慌てて探すため上体を起こそうとすると、ふわりと世界が暗くなる。
「あの…起きれないんだけど、」
覆い被さってきた光に引き攣った笑みを浮かべながらやんわり胸板を押してみても本人は退ける素振りを一切見せず、只私の目をそらさず見ていた。
私もどうして良いか分からなくて見返していると、さっきまで暖かかった胸元が妙に寒く感じる。
少し驚いて下を見てみれば、光の細い指が私のお気に入りのシャツのボタンを片手で器用に外していた。
「ちょっと、ひか、…ぁむっ、」
「黙っといて下さい。」
光を止めようと口を開けば、光の指が半分口内に入ってきて言葉はもごもごと訳の分からないものになってしまった。
わーわーどうしようどうしよう。
既に酸素の回らない一杯一杯の頭でああでもないこうでもないと考えてみても良い考えは浮かばす、結局光にされるがまま。
真っ昼間からこういう事するの嫌なんだけどな、なんてぼけーっと思っていると何か柔らかいものが胸に触れる。
吃驚して咄嗟に光のTシャツを掴む。
すると光は、私の口から指を抜き胸元に埋めていた顔をあげて、今度は鎖骨辺りにぽすんっと頭を預けた。
…これは何をしたら正解なんだろうか。
取り敢えず、自分も落ち着くために光の髪の毛をわしゃわしゃ撫でる。
「あぅっ、」
「子供扱いせんといて下さい。」
が、光が頭をこつっとぶつけて攻撃してきたから撫でるのを止めてそのままベッドに手を投げ出した。
暫くお互いに何も云わず只ぼーっと天井を眺めていると下から先輩、と声が聞こえてきた。
「何?」
「……、」
案の定返事は返ってこない訳だけども。
あ、そういえば結局私の携帯は何処に行ったんだっけー…まぁ、もう良いや。(白石も私の声聞こえなくなったから切った筈)
何て一人であれやこれや考えていれば、私の背中に手を回しぎゅうっと抱き着く光。
私も真似して抱き着けば、光の腕に少しだけ力が入ったのが分かった。
あー。
「好き。」
「え、」
「…あ、」
気が付けば思った事を口にしてしまっていた。(いや、気持ちを伝えただけだから不味い事はない、多分)
そろそろと光を見てみれば、案の定ポカーンとした顔で私を見ていた。
どうしたもんかと苦笑いを浮かべていたら、クスッと光が笑った。
そして、そのままぐりぐりと頭を鎖骨に擦り付けてきたから(地味に痛い、でも可愛いから許す)私も光の首に腕を回してぎゅうっと抱き締めた。
「…俺も、」
「ん?」
「俺も、先輩ん事好きや。」
じゃれている最中にそんな事を突然云われたから、暫くフリーズ。
ハッと我に帰る頃には、じとーっとした目で私を見ている光とご対面。(誰のせいだ)
何て返そうか考えていると、独り言やと思って黙って聞いといて下さいなんて云われたものだから、大人しく口を噤む。
光は、一呼吸置いて喋り始めた。
「俺、最近ずっともしかしたら先輩に愛想尽かされとんのかも知らんて思うてた。」
「え、何で?」
「(黙っとけ云うたのに…)元々、先輩が断らんかっただけで無理矢理付き合うたみたいな感じやったし、序でに…この…扱いにくい性格やから、何時愛想尽かされても可笑しないって、」
「あー…、」
「せやけど、さっきのでまだ先輩の気持ちは俺と繋がっとるって確認出来たんで、今云うた事は忘れて下さい。」
「…ん?じゃあ、光はそれが気になってたからこういう事したの?」
光の背中をぽんぽん叩きながら興味本意で尋ねると、光はばつが悪そうに何で一々云わすんスか、ってぼやく。
だって、聞きたいんだから仕方が無い。
私がじーっと見詰めれば、観念したのか苦虫を噛み潰したような物凄い顔をしていたけれどぽそぽそと言葉を紡ぐ。
「笑わんといて下さいよ。」
「笑わない笑わない。」
「…正直、嫉妬した、」
何で?と聞こうとしたら光はこれで良えですか、と云って直ぐに顔を伏せてしまった。
まぁ、久し振りに光の本音も聞けたからこれ以上欲張らない方が良いかな。
そう思って瞳を瞑ると本日二回目の胸元の寒さ。
瞼を開けば、相変わらずの天井と光が見える。
「…何するの、」
「何するって…先輩は俺のやっちゅー"マーキング"。」
そう云うと光は、ちゅっと胸にキスを落とす。
こんな事しなくても、私は光以外の人の物になんてならないのに。
何て思いながらふわふわの髪の毛を優しく梳けば、相変わらず気持ち良さそうに目を細める光が愛しくて、"好き"の代わりにぎゅうっと抱き締めた。
2013/01/05