キーンコーンカーンコーン

授業終了のベルと同時に先生の号令が掛かり、皆わらわらと帰る準備をし始める。

ウチも鼻歌交じりに教科書やらをバッグに収めていると、前の方からユウ君がめっちゃ笑顔で駆け寄ってきた。


「こーはーるーっ!一緒に部活行こうや!」

「あー、ユウ君堪忍なぁ。今日、先約入っとって部活行けへんねん。」

「えー!?ちょ、誰や、その相手!」

「彼女。」

「あ、彼女か。せやったらしゃーないな…。」

「ホンマごめんな〜。ほな、また明日〜。」

「おー。」


落ち込んどるユウ君にひらひら手を振りながら教室を出て、丁度階段を降りようとした時にさっきまでおった教室から彼女ー!?っちゅー叫び声が聞こえてきた。

そんな声にクスクス笑いつつ、軽快な足取りで階段を降りていった。

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ウチは学校からちょっと離れた所にある公園に、少し急ぎ足で向かう。

左腕の時計を眺めて時間を確認…ちょお遅れてしもうたわぁ。

内心そわそわしながら公園に着いて入っていくと、同じ学校の制服を着た女の子がブランコに座って携帯をつついていた。


「名前ちゃん、」

「…ん、小春。」


ウチに気付いた名前ちゃんは携帯をパチンと閉じると、ブランコから立ち上がり此方に歩み寄って来た。


「遅れてごめんなぁ、結構待ったやろ?」

「まぁ、少しだけ待…ってない、」

「え?」

「待ってない。私も今丁度来たから。」


言葉の途中で止まったかと思ったら、誰でも分かるような嘘を吐く名前ちゃん。

何なんこの子可愛過ぎるやろ。

ごめんっちゅー意味を込めて名前ちゃんの腕に自分の腕を絡めながら話を続ける。


「それなら良えんやけど…ところで、今から何処行きたい?」

「私はー…特にない。小春は何処が良い?」

「せやなぁ…今日寒いから名前ちゃん家行きたい〜。」

「ん、良いよ。」


ウチがそう云うと、名前ちゃんはどこか嬉しそうに頷く。(表情はあんまり動いてへんけどな)

ほな、名前ちゃんの家までレッツゴー!と絡めた腕を高々と挙げて一緒に歩き始める。

名前ちゃんからふんわり香る甘いクリームの匂いに少しだけ期待しながら。

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「お邪魔しま〜す。」

「今誰もいないから、遠慮しなくて良いからね。」


えー、お兄さんもおらへんのー?っちゅーてもぞもぞ靴を脱ぎつつ聞くと、今日は大学行ってバイトにも行くみたいだから夜まで帰ってこられないらしい、と返して名前ちゃんはさっさとリビングの方に向かって行った。

ウチも出されたスリッパを履いて後を着いて行く。

適当に座ってて、と云いながらテキパキとコップにお茶を注いでそのままパタパタ小走りで二階に上がって行ってしもうた名前ちゃん。

静かなリビングに残されて何もする事がなく、出されたお茶をちみちみ飲みながら五分位待っていると、またパタパタという名前ちゃんの可愛らしい足音が二階から降りてくる。

うーわー何なんこの可愛さー。

白と薄いピンクのボーダーニットに普段制服で隠れとる綺麗な脚を出したミリタリーショーパン(まぁ、あんまり見えへんけど)、萌の王道の黒のニーハイソックス穿いてウチの前に現れた名前ちゃんは天使と見まごう程の可愛さや、いや、もうこの子天使。

ホンマ私服様様やわ…写真撮って見せびらかしたい位可愛えわぁ…。

まぁ、ほかの男が名前ちゃんの事やらしい目で見るから絶対せえへんけど。

ウチが可愛え可愛えって連呼しとると名前ちゃんはほんのり頬を染めて、そんな事ないっちゅーてぽつりと呟いた。

そういう所が可愛えんやけどなぁ。

せやけど、あんまり云うてると名前ちゃん恥ずかしくて逆にふててまうから今回はこの辺にしとこか。

最後にもう一回だけ可愛えって云うたら、微かに名前ちゃんの頬っぺたが膨らんできたからクスクス笑った。

咳払いを一つして動揺を表に出さないように自分を落ち着かようとしとる名前ちゃんの頬っぺたはまだ少しだけ赤い。


「ところで、」

「ん?」


気不味そうな名前ちゃんはウチとは目を合わせずに斜め下を見ながら話を切り出してきた。

ウチがニコニコして返事するとやっと落ち着いてきたのか、名前ちゃんは顔を上げて一つ呼吸を置いてからまた口を開く。


「私が間違ってなければ、小春誕生日だよね。」

「おん、せやで〜。これでまたアダルティーな大人に近付いたわ〜!」


そう笑いながら投げキッスをして見せると、名前ちゃんは何それっちゅーて少し笑ってくれた。

それから暫くフザケとると、名前ちゃんの向こう側にちょこんと使われてへんティーカップと可愛らしいお皿が二つ重ねて置いてあった。

ほんの少しドキッとしたのを悟られへんように名前ちゃんに問い掛ける。


「なぁなぁ、もしかしてケーキとか期待しても良えのん?」

「あー、うん。小春の口に合わないかも知れないけど、一応。」


名前ちゃんは、一瞬キョトンとしとったけど直ぐに返事して冷蔵庫に向かった。

冷蔵庫から取り出されたのは、THE・手作りっちゅー感じのシンプルなショートケーキ。

ウチが何も云わんかったせいか名前ちゃんはちょっとしょんぼりしたように、やっぱり美味しそうに見えないよね云うて小さく溜め息を吐く。

ああ、違うねん!

しょんぼりした顔も十分に可愛えけど、今はそれ所やあらへん。


「いやいやいや、別に美味しそう見えへんかったから何も云わんかった訳と違うんよ…!なぁ、これって名前ちゃんの手作り?」


わたわたしながらも尋ねると、名前ちゃんはこくん、と首を縦に振った。


「やっぱり〜!ウチな、名前ちゃんがウチのために作ってくれた事に感激して何にも云えんかってん。せやから、そない寂しそうな顔せんといて?」

「…そ、う、」

「せやせや〜。」


よしよし、と頭を撫でてあげると名前ちゃんは子供じゃないしっちゅーて、ぷるぷる頭を振った。


「さ!誤解も解けた事やし、ウチ、名前ちゃんが一生懸命作ってくれたケーキ食べたいわぁ。」

「美味しくなかったら残して大丈夫だからね。」


そないな事する訳ないやんけ〜!ってオーバーな身ぶり手振りを着けて云うと、名前ちゃんはやっぱり笑うてくれた。

名前ちゃんが少し危なっかしい手付きでケーキを切り分けとる間、ウチはさっきのティーカップに紅茶注いだりちまちました仕事をする。

ケーキが切り終わってお皿に盛られる。

ウチが椅子に座って、ほな、食べよか〜って云うたら名前ちゃんが、あっ、と声を漏らしてまた冷蔵庫の方に向かった。

小走りで行って戻ってきた名前ちゃんの手には数字の形をした蝋燭。

名前ちゃんはそれを切り分けたウチのケーキに刺して取り出したライターで火を点ける。

ゆらゆら揺れる火をぼーっと眺めとると、控え目に歌が聞こえてきた。


「ハッピバースデートゥーユー、」


恥ずかしそうに頬を染めながらも歌いきった名前ちゃんは、最後におめでとうっちゅーてふんわり微笑んだ。

名前ちゃんにつられてウチも笑う。

ああ、今ウチ幸せ過ぎて死ねる。

このまま時間止まったら良えのに、このまま名前ちゃんを独占出来たら良えのに。

そう思いながら吸い寄せられるように名前ちゃんの頬に手を伸ばす。


「お、小春ちゃんじゃん。いらっしゃーい。」


頬に触れる直前、突然名前ちゃんのお兄さんが現れて、伸ばしとったウチの手は所在無さげに宙をさ迷った。

名前ちゃんがお兄さんの方を向いて、何でいるのっちゅーてあからさまに嫌そうな顔で聞くとバイト、クビになったんだわー、とけらけら笑いながら答えた。

名前ちゃんのお兄さん、オモロイけど変な所で楽天的やねんな。

ウチが苦笑いしとると、名前ちゃんは溜め息吐いて謝ってくる。


「此奴いるから静かに祝えない、ごめん。」

「ちょっと、仮にもお兄ちゃんに向かって此奴とは何だよー。お兄ちゃん泣くぞ。」

「外で泣いてね。」

「名前も一緒にね。」

「……、」

「まぁまぁ〜。折角の誕生やし、人数多い方が楽しいやん?」

「何、小春ちゃん誕生日?えーおめでとー。」


おおきに〜!ってお兄さんに返すと、何だ、要するに邪魔だった訳ね、とさっきのダルそうな感じから一変してニヤニヤし始める。

そんなお兄さんを強制的にリビングから追い出し二階の方に送還する名前ちゃん。

相変わらず仲良えなぁ。

二階から降りてリビングのドアを閉めた名前ちゃんは深い溜め息を吐いて蟀谷を軽く押さえながら椅子に座った。


「ホンマ、名前ちゃんとお兄さん仲良えよね。」

「冗談でも止めて…!」


ぎゅっと拳を握って、あまりにも真剣に話すもんやからついクスッて笑うたら、名前ちゃんは何で笑うのと頬を膨らませた。

ウチはニコニコ笑って、膨らんだ名前ちゃんの頬をぷにぷにと指でつつきながら口を開く。


「来年はウチの家でお祝いしてくれへん?」


そう聞くと、名前ちゃんは不思議そうにしとったけど頷いてくれた。


「約束な!」

「ん、約束。」


また来年も君と。


2012/11/09 K.Koharu HappyBirthDay.
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