只今、部室立ち入り禁止!


「…んだ、これ。」


朝、部室の鍵を開けに来てみたらドアの前に変な貼り紙が貼ってあった。

見た所、あの阿呆白石の字なんだけども、どうしてくれようか…彼奴のやる事は兎に角面倒だから、もうスルーしよう。

そう思うよりも先に貼り紙を剥がしてくしゃくしゃっと丸める。

このゴミは中にあるゴミ箱に捨てとけば良いや、と考えながら鍵を開けてドアノブを捻る。


「あ!名前、アカン!」

「は?」


背後から大声で叫ばれて振り返ると白石が、あちゃーみたいな顔で此方を見ていた。

最初こそ、何が?とか思ってたけど、もう一度ドアに視線を戻すと、ああ、そういう事かって納得。

次の瞬間に、私は大量のカボチャの波に飲み込まれていた。

遠くの方から、名前ー!生きとるかー!って相変わらず阿呆みたいな事聞いてくる白石の声が聞こえてくるから、多分、私生きてる。


「今助けたるからな!」


当たり前だろ、と返事するのも嫌になって唯一カボチャの波に飲まれず外に残った左足を引っ張られ救出されながら、これからどうやって白石にジャーマンスープレックスを掛けようかぼんやり考えた。

ずるずると半ば引き摺られながら、何とかかんとかさっきまで見ていた青い空とご対面。

白石はぼろぼろの私を優しく立ち上がらせて制服に着いた汚れを叩く。(本当、こういう時だけは優しいのな)

もう、何か怒る気も失せて溜め息を吐いていると、隣から途轍もなく申し訳無さそうな声が聞こえてきた。

そっちを見れば、あの阿呆の白石が眉毛を八の字にしてばつが悪そうに頬を指で掻きながら謝ってきた。

あんまり謝られるても気分良くないし、もう良いよ、と云うと白石は、はたと思い出した様に口を開いた。


「せやけど、貼り紙しとったんやで?」

「そうだな、日頃の白石の行いが悪いから私に信用されなかったんだな。」

「えー?それは名前の責任やん!俺はちゃんと予告しとったし。」


さっきのしおらしさは何処へやら、急に得意顔で喋り始める白石にムカついたから、取り敢えず脛を思いっきり蹴った。

うっ!って呻き声漏らして地面に倒れ込んだ白石をけたけた笑って踏んづけていると、向こう側に謙也と財前がいるのを発見。

彼方も此方に気付いたみたいで、謙也はおはようさーん!と声を掛けてきた。

私も、軽く手を挙げてそれに答えると白石から足を退ける。(白石はまだ悶えている)

倒れている白石に気付いた謙也は、ちょ、大丈夫か!?って云いながらも笑いを堪えられないらしく、泪目で白石をバシバシ叩く。

財前は、無言で惨めな白石の姿を写真に残していた。(後で送ってもらお)

一頻り謙也の笑いも白石の脛の痛みも収まったから、白石を地面に正座させて致し方無く思い出したくもない事件の本題に入った。


「…で、何で部室にあんな大量にカボチャを仕込んだ。殺す気か。」

「違う違う!寧ろ、楽しんで貰おうと、」

「アレの何処が楽しめるってんだよ、あ゛?」

「名前さん、顔怖いっすわ。」

「てか、白石泣いとる?」


財前に宥められながら白石を見ると、めそめそと明らかに嘘臭い感じで泣いていた。

男が泣くんじゃねぇよ、という言葉が喉元まで出掛かったけど、これ以上話を拗らせないようその言葉を飲み込み、一つ息を吸い込んで自分を落ち着かせ話を進める。


「まぁ…別に、楽しい楽しくないは置いといて…、カボチャを持ってきた理由は?」

「いや、それはー…、」


そこで言葉を濁して、先を云おうとせずに視線を游がせている白石に苛々。

思わず白石の胸ぐら掴むんで早く云えや、と脅すと流石に謙也に仲裁に入られ、序でにずるずると引き離された。


「部長も暇っすね、こないな迷惑なもん仕掛けるなんて。」


これ以上私と白石が話をしても進まないと思ったのか、財前が携帯をカチカチつつきながら面倒臭そうに口を開いた。

しかし、白石は阿呆だからさっきと同じ様に曖昧に返事をする。


「何なんこいつムカつく殴って良えですか。」

「私が許す、一発お見舞いしてやれ。」

「ちょ、止めろや!財前もホンマに殴ろうとすなー!」


すんでの所で、またしても謙也が間に入りずるずると財前を白石から引き離す。

私と財前じゃ苛々して暴力を振るう以外の選択肢がないから、穏便に済ませるために謙也を導入。(今更)


「まぁ、何や…別に何の考えも無しにこないな事やった訳やないやろ?」

「当たり前やん!俺が好き好んで無駄な事するように見えるか?」

「いや、見えへんけど…。(見えるとか云うたら話面倒になるしな)」


絶対無駄だって思ってんだろって目で謙也を見ると、明後日の方に視線を向けながら適当に返事をしていた。(結局、謙也も面倒なんじゃないか)

いい加減に飽きてきたから、白石の相手は謙也に任せて暇潰しに財前とゲームの話で盛り上がっていると、背後から首根っこを掴まれる。

振り返ると、謙也が少しだけ眉間に皺を寄せ、終わったで、と云った。(心なしかげっそりしている)

財前との話で白石と謙也の話を全く聞いてなかったから改めて話を聞くと、どうやらその後も色々と話をしたみたいで取り敢えずはカボチャは片付けるって事で何とか纏まったらしい。


「ちゅー事で、一緒に片付けんで。」

「えー!?」

「あからさまに嫌そうな声出すなや。」

「せやけど、嫌なもんは嫌っすわ。」

「しゃーないやろ。一緒に片付けなやらへんって駄々こねるし…。」

「「餓鬼か。」」


はぁ、と溜め息を吐きながら部室の前に転がっている忌々しいカボチャを見る。

あのカボチャを片付けない事には部室に入れないんだよねー…やらないといけないのか…。

まぁ、幾ら此処で悩んだ所でカボチャはなくならない訳だし、私は制服の袖を巻くって先にカボチャを片付けている白石の近くにぽてぽて歩み寄る。

一メートル位距離を空け、しゃがみこんでカボチャを拾い始めた。(拾うって云っても一個一個が無駄にでかいから最高で二つしか持てない、畜生)

どうしようかと思っていると、白石がすすすっと近寄ってきて袋を差し出して来たから、私はその袋に掴んでいるカボチャを放り込む。


「…堪忍な、」

「何が。」


何やかんや黙々とカボチャ撤去に勤しんでいる私に、ぽつりと訳の分からない事を白石は溢したから冷たく返してやった。

チラリと白石を盗み見れば、明らかにショックを受けたような雰囲気を醸し出して、地面に四つん這いになっていた。

何か相手にするのも面倒臭くて、取り敢えず無視してカボチャを拾う。

私が目の前に転がっていたカボチャを掴もうと手を伸ばすと、後少しの所でそれが宙に浮く。

多少驚きながらもそのまま取り損なったカボチャを目で追っていると、さっきまで横で落ち込んでいた白石がそのカボチャを持って私の前に立っていた。(お前か)


「白石、其所邪魔なんだけど。」

「……、」

「…さっきから何見てんだ、殴るぞ。」

「別に良えよ。」

「…は?」


カボチャ運び過ぎて頭がイカれたのか、また訳の分からない事を云う白石。

私は今日何度目かの深い溜め息を吐きながら口を開く。


「何か悩みでもあんの?」

「いや、あらへんけど。」

「…あのさー、前から思ってたんだけど、嘘吐く時に瞬き増やすの止めれば?」


私がそう云うと、白石は少し驚いてたけど直ぐにへらっと苦笑いしながら、やっぱり名前には敵わへんわぁ、と云って私と同じ目線位までしゃがみ込んだ。

まだ話聞くなんて一言も云ってないんだけど、実はこれ誰にも話してへんのやけど、だとか、誰にも云わんといてな、だとか白石が一人で喋っている間も私は適当に返事をしながらこつこつカボチャを拾っていく。(というか、持ってきた本人が一番やってないじゃん)


「名前ってもう進学先とか決まっとる?」

「まあ、大体。」

「遠い?」

「そうだなー…近くはない。電車で一時間ちょい位。」

「やっぱり…、」

「何、もしかして寂しいとか?」


冗談のつもりでけらけら笑いながら白石を見れば、思いの外真顔で笑うに笑えない雰囲気になっていた。

暫くお互いの顔を無言で見合っていると、白石が一瞬ピクッと反応して(此方もちょっと吃驚した)さっきの苦笑いで私の頭をくしゃくしゃと撫でた。

私は、髪の毛乱れるだろがって云って頭に置かれている白石の手を少しだけ乱暴に払う。

此処のカボチャは拾い終わったから、まだ向こうに疎らに地面に転がっているカボチャを収集しに立ち上がる。


「よっこいしょ。」

「名前、年寄臭いわー。」

「喧しい、誰のせいだと思ってんだ。マジでブン殴るぞ。」

「…名前のこないバイオレンスな言葉も聞けへんくなるんかなー…、」


私は今日一番深い溜め息を吐きながら袋を漁り、手頃なカボチャを手に取るとそのまま白石のボスンと頭に被せた。

うわっ!と声をあげて尻餅をついた白石を他所に私は口を開く。


「別に二度と会えなくなるような場所に行く訳じゃないんだからウジウジ悩むな。正直今の白石鬱陶しい。」

「あー…や…分かってるん、やけど…、」

「なよなよすんなキモい。てか、携帯なりパソコンなりがあるんだから話したくなったら何時でも話せるじゃん。二十一世紀舐めんな。」


そう早口で捲し立てると、カボチャを被ったままの白石が小さく笑った。


「ははっ!名前の云う通りやわ…ウジウジ考えてもしゃーないよな。」

「その顔で笑うの止めろ、何かヤダ。」

「自分がやったんやろ。」

「外せば良いじゃん。」

「いや、これ今気付いたんやけど結構暖かいねん。」

「マジか。」


私も試しに袋から取り出しカポッと被る。(あ、結構空間がある。うん、無駄)


「えー本当に暖かいんだけどー。」

「せやろ。あ、これ、謙也と財前にも教えたろ。」


云うが早いか白石は立ち上がって謙也達の所に走り出した。

さっきまでのしんみりなよなよした白石は何処に行ったんだろうか…まぁ、あっちの方が白石らしいから別に良いんだけど。

私は隣に残されたカボチャの入った袋を引き摺りながら白石の後を着いていった。


(謙也ー財前ー、ちょおこれ見て。)
(え、お前誰や。首から下白石のお前は誰や。)
(部長、やっぱりキモいっすわー。)
(いや、キモいやのうて俺の話聞いてや!)
(聞く価値あるんすか?)
(あるある!大アリや!)
(そうそう。たまには聞いてみるのもありだぞ。)
(ぎゃあ!カボチャ頭が増えた!)


2012/10/31 HappyHalloween.
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