「小春ー!好きだー!」

「うちも名前ちゃんの事好きやで〜!」

「小春、浮気か!死なすど!」


普通の学生の私の少し変わった性嗜好。


「小春大好きっ!」

「うちも名前ちゃんの事、大好きやで〜!」

「せやから浮気かっ!」


小春は私が好きって云うと、好きって返してくれる、返事をしてくれるのは凄く嬉しい。

けど、小春の"好き"は私の"好き"とは違う、きっと、私の事は友達として好き何だと思う、女の子としては、違う。

いや、もしかしたら女の子としても好きなのかも知れない、其れは小春は気持ちは女の子だから。


「あ。予鈴鳴りそうだから帰るね。愛してるよ小春ー!」

「うちも愛してんで〜!」

「名前何云ってんねん。俺かて小春愛してんで!」

「一氏は黙っとき。」


私は一通り小春に愛の言葉を云った後、小春に軽くあしらわれ落ち込んでいるユウジを連れて、自分の教室に戻った。


「うー…。」

「何唸ってんねん。気持ち悪いで。」


私が机に俯せ唸っていると隣の席のユウジが話し掛けてきた。


「ユウジー…。駄目だー。小春が足りない。という事で、小春の所行ってくる。」

「阿呆。意味分からんわ。それにもう直ぐ授業始まんで。ちゅーかそれ云うなら俺かて小春の所行きたいわ。」


ユウジはそう云いながら授業道具を鞄から出した。


「良いよねユウジはー。」

「何が。」


私は顔だけユウジの方を向き、話始めた。

「だってユウジは学校が終わっても、部活で小春に会えるでしょ?」

「まぁ、同じ部活やしな。」

「…良いなぁ。」


私は足をバタバタさせる。

そしてユウジが私に「はしたないやっちゃな。」と云ったと同時に本鈴が校舎に鳴り響いた。

午後の授業も終わり、掃除を済ませ、私は帰る準備をしていたら、私の机の前で誰かが立ち止まった。

私はフッと顔を上げると其処にはユウジが腕を組んで立っていた。


「どうしたの、ユウジ。」

「今日の部活、見に来い。」

「…其れは別に席に座ってからでも良かったんじゃないかな。」

「うっさい。気にしたら敗けや。」


ユウジの席は私の隣だ。


「ぉお…!これがテニスかー。」

「初めて見たみたいな口振りすな。」


ユウジはそう云うと、こっち、と私を案内してくれた。

痛快な程良い音が鳴り響くテニスコート。


「皆上手いね。」

「当たり前やろ。皆レギュラーなんやから。お前は此処におれ。」


ユウジは其れだけ云うと、部室であろう方に行ってしまった。

私は一人コートの隅のベンチに座っていた。


「…。」


私は一頻りコートを見回したが、肝心の小春の姿を見付けることは出来なかった。


「まだ来て無いのかな…。」


ポツリとそう呟くと誰かが後ろから目を塞いできた。


「っ、な、何!?」

「だ〜れや!」


聞きたかった声、少し鼻にかかったような、けど、聞いてて落ち着く、この声は。


「小春!」

「正〜解!」


私が答えると小春は、パッと手を退けて私の前に回って来た。

「よう分かったな〜。」

「当たり前だよ!小春の声なら、世界中何処にいても聞こえるよ。」

「あら、嬉しい事云うてくれるやん。」


私がそう云うと小春は体をくねくねさせながら頬を染めた。

ふと私は、小春の格好が何時もと違っている事に気付き、訊ねた。


「其れ、ユニフォーム?」

「そうやで。似合うてる?」


小春はクルリと私の前で回って見せた。


「もちろん!でもあっちの人と何か違うね。」

「あぁ。うちのはレギュラージャージやからね〜。」

「へぇ…。」

「何や、名前ちゃん反応薄いなぁ…。」


私があまり反応を示さなかったため、小春はショボーンとしていたから、私は直ぐフォローを入れた。


「あ、ごめんごめん。凄い似合ってるよ。にしても少し可愛いね、レギュラージャージ。」


私はそう云うと小春のジャージを引っ張った。


「そう?うちはそこそこや思てるけど。」


小春はその後もレギュラージャージについて話していたが、私はあんまり聞いていなかった、というか、聞けなかった。

私、小春に触ってる。

正確には小春のレギュラージャージ何だけど、今はそんな事はどうでも良かった、只、今小春に触れているだけで幸せな気分だった。

でも、こんなに近くにいるのに、何でこんなに遠くに感じるんだろう、こんなに近くに、小春はいるのに。

そんな私の心境を知ってか知らずか小春は私の顔を覗きこんだ。


「名前ちゃん、何か有ったん?ぼーっとして。」

「へっ?うぁっ!近い!」


あまりに小春との距離が近かったため、つい私は小春から少し離れた。


「え?何?うち何か名前ちゃんにした?」


小春は直ぐに私の異常に気が付いて心配し始めた。


「体調悪いんやったら医務室行く?」


違う、違うよ、、悪いのは、全部私なんだ、だから、そんな顔しないでそんな、辛そうな顔しないで。

私は何時の間にか泣き出していて小春は慌てて私の背中を擦る。


「やっぱりどっか痛いん!?先生呼ぼか!?」


そう云い、小春は私から離れていこうとしたが、私は小春のジャージの裾を引っ張り、制止した。

その私の行為に小春は驚き、何か云おうとしていたが、何か悟ったのか、何も云わずに私が座っているベンチに座った。

暫く私も小春も何も云わなかった、只、小春は私の背中を擦り続けた。

少し時間が経ち、ようやく私は話し出した。


「急に泣き出してごめん。何か自分の気持ちに整理がつかなくて、つい泪が出てきちゃっただけなんだ。」


そう云うと私は腫れているであろう目で小春に、にへっと笑った。

そんな私を見て小春は私を抱き締める。

私は今自分が置かれている状況が把握出来ず、慌てて小春を見たが、小春は何も云わず私が落ち着くのを待っている様に見えた。

私は直ぐに落ち着き、小春が話し出すのを待つ。

小春は私が落ち着いた事を確認し、ゆっくりと話始めた。


「何が名前ちゃんの中で有ったかは分からへんけど、一人で溜め込まんとき。うちでも誰でも良ぇ。話してや。話すだけでも全然違うんやで。やから、
一人で苦しい思いせんといて。」


小春は云い終わると、私の目を見て、な?と云った。


「…じゃあ、私の悩み聞いてくれる?」


私がもごもごと喋ると、小春は当たり前やで!と笑顔で返してくれた。

そうして私は心を決め、小春に打ち明けた。


「私は小春が好き。小春も私の事、好きって云ってくれる。でも、小春の"好き"と私の"好き"は違うんだ。私は小春の事、本当に大好き。世界の誰よりも好き…小春は、私の事、どう思ってるの?」


私は小春の肩に顔を埋めながら、返事を待った。

すると、小春は、う〜ん…と唸り、言葉を探している様だった。

しかし、直ぐに話始める。


「うちも、名前ちゃんの事好きやで。せやけど、うちは名前ちゃんの事本当に好きやから、名前ちゃんの気持ちには答えられへん。けど、相談相手になら幾らでもなってあげられるで。何時か名前ちゃんがホンマに誰かを好きになった時は、一番最初に教えてな?何時だってうちは名前ちゃんの味方やで。」


小春はそう云うと、私の頭をポンッと撫でた後、ほな、練習行って来るわ〜!、と云いコートの方に行った。

きっと私は、小春のああいう所が好きだったんだろうなぁ、何時か小春より好きになれる人が出来るのかなぁ。

私はそんな事を考えながらコートに鳴り響くボールの音に耳を傾けた。

今日はとても心地好い風が吹いている。


2011/04/07
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