「花火、」

「ん?」

「花火、見に行こか。」


ごろん、と床に寝っ転がって天井を見つめていたユウジが何処から引っ張り出したのか分からないチラシを隣で寝ている私の方に渡してぽつりと呟いた。

私は数秒間フリーズしてユウジを見ていたけど、やっと意識が戻ってきて急いで首を縦にぶんぶんと振った。

ユウジは私は頷いたの確認すると、何処か安心したような表情をして見せたけど直ぐに笑って、ほな、浴衣とか着て行こ!と嬉しそうに云う。

私も、お母さんに浴衣あるか聞いてみる!と笑いながら返した。

楽しみだなぁ、と思いながらチラシを眺めていると、不安が一つ頭を過る。

私が表情を少し曇らせたからか、ユウジは笑うのを止めてどないしてん、と不思議そうに聞いてきた。


「いやー、花火大会だよね。」

「せやで。」

「人多いかなぁ…。」

「…そういえば、名前人混み苦手やったっけ。」


苦笑いしながら、ごめん、と謝った、そんな私にユウジは、いや、こっちこそすまん、と申し訳無さそうに謝る。

謝らなくて良いのに、寧ろ私の方が沢山謝らなきゃいけないのに。

私が独り言のようにまた、ごめんと云うと、ユウジはわしゃわしゃと私の頭を撫でた。

吃驚してユウジを見ると、気にしてへんから謝るの止めや、と笑う、ああ、何だかなぁ。


「私ばっかり…ユウジに迷惑、掛けてる、」


天井を見上げながら、手で目を塞ぐ、小さい頃からずっと、何時まで経っても変わらない。

私がアレが駄目、コレが駄目って云う度に、ユウジは私に合わせて我慢したりしてる。

こんなんじゃ駄目だって分かってても、何時の間にかユウジに頼り切ってしまう。

ウジウジと落ち込んでいると、隣からユウジの声が聞こえた。


「名前、手退けや。」

「へ、ぶっ!」


ゆるゆると手を退けると、べちん!とユウジの手が私の顔面に振ってきた。

勿論、その手を受け止める用意なんてしていなかった私は、綺麗に顔面で受け止める。

いきなり過ぎて、どう反応して良いのか分からなかったけど、取り敢えずユウジの手をそっと自分の顔から退けた。

私が、叩かれた鼻を擦りながらも、何か文句の一つでも云おうかと口を開こうとするよりも先に、ユウジが喋った。


「名前は今のままで良え。」

「え、」

「無理して変わる必要なんかあらへんっちゅーてんねん。」


思考が停止してぽかーんと呆けた表情でいると、ユウジは、えらい阿呆面してんでーと笑った。

ハッと我に帰って話そうにも、上手く言葉にならなくず、はくはくと口を開いたり閉じたり無駄な酸素を肺の中に入れてしまうだけだった。

私は、ユウジに宥められ、やっと言葉として形成されたモノを吐き出す。


「ユウジ、私に合わせて、我慢…とか、してない…?」

「まぁ、してへん云うたら嘘にはなる。」


やっぱり…私がユウジの返事に力無く笑い返すと、ユウジはせやけどな、と言葉を続けた。


「名前のため思うたら、我慢なんて何ともあらへん。」


それに、花火なんて家でも出来るしな!なんて云うと、ユウジはにかっと笑った。

私も何か云おうとしたけど、きっと上手い事なんて云えないから、ユウジにつられて下手くそなりに笑った。


2012/07/06

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