「うぉおおおおお!!名前ー!!」

「ぎゃぁあああああ!!止めろ触るな近寄るなあああああ!!」

「ぶふぉっ!!」


つい条件反射で飛んできた白石に渾身の力で右ストレートを食らわしてしまったが、今の私悪くないもん、そもそも、お前何で飛んできたんだ。

床に突っ伏したまま動かない白石をぐにぐにと両足で踏んでいると、下の方から呻き声が聞こえてきた。


「白石生きてる?私としては死んでて良いんだけど。」

「ふふ…そんな名前の期待を大いに裏切って復活すんで!」

うわー凄くキモーいと罵れども、そんな罵声までもを糧にして(罵られた時の白石の恍惚とした表情には流石の私もドン引きした)ゆるゆると立ち上がる白石。

ひょいと上から退いて、白石が完全に回復する前にその場を後にしようとした。

歩き出そうと右足を前に出して、さて左足も出すかと左足に力を入れても前に進めない、まさか、そんなキモい事…。

見るのも物凄く嫌なんだけども、ゆっくりと自分の左足を見ればまるで玩具売り場で執拗に買って買ってと玩具をねだる餓鬼のような感じで(子供苦手なんですけど)私の左足を抱き込んで拘束している白石。

何と云うか、地獄絵図のようなこの光景に目眩さえ感じる、蟀谷を押さえて溜め息を吐く。

そんな私に白石は嬉々として話し掛ける。


「名前、好きや!付き合うて!」

「やだぁ、そんな面白くない冗談白石君以外云わないよーあはははー。」

「冗談違うわ!本気なんやって!」


この真剣な目を見てもまだ冗談なんて云えるんか!?と此方を見上げてくる白石を無視して、力づくでも前に進もうと左足にぐぐぐっと力を入れる、やっぱ重たいわ、こいつ。

無駄な体力を使うのにも癪だから力を抜けば、さっきまで無理に動かしたら名前の細くて綺麗な足が折れてまうー!と喚いていた白石も(なら離せよ)パッと力を抜いた。


「やっと名前も俺の魅力に気付いてくれたんやな!」

「白石、魅力に謝った方が良いと思うよ。」

「何で?あ、余りにも俺が魅力的過ぎてっちゅー意味で?そういう事やろ?」

「黙れば?」


物凄い勘違いをしている白石につい条件反射で渾身の力で瓦割りを食らわしてしまったが、今の私悪くないもん。

しかし、今回のは然程効いてないらしく直ぐ回復して、何で!?何で!?と、しつこく私のスカートを引っ張りながら聞いてくる。


「何でや!何で名前は俺と付き合うてくれへんのや…!俺の何がアカンねんんん!」

「存在?」

「流石に存在まで否定されると傷付くんやけど。」

「もうさー、いい加減諦めてよー。私もそろそろ疲れるからさ。」

「…分かった、付きまとうのは、もう止める…。」

「うん、好意事態は嬉しいんだけどね。下手すると警察巻き込んでする事になるからね。」


白石の肩に手を置きポンポンと叩く。

やっと白石から解放されると思うと、何となく達成感さえ感じた、だけども、そんな私の期待を大いに裏切って更に斜め上を目指す白石の口からは、分かりきっていた台詞が飛び出す。


「その代わり俺と付き合うて!」

「だから、お前何なんだよ。」


スパーン!と目にも止まらぬ早さで白石の頬をぶって冷たい視線を送る。

だけど、やっぱりどこか嬉しそうな表情を浮かべながら頬を押さえる白石、もうあんた何になりたいんだ…。

最早視界の中に納めるのも嫌になって窓の外を眺めていると下から白石が話し掛ける。(いい加減汚いから立てば良いのに)


「名前は俺の何処が受け付けへんの?」

「全部。ていうかさ、悪いけど、どんなに好き好き付き合ってーって云われても、絶対無理なんだってば…。」

「何?え?もしかして彼氏みたいな?男的な?え?おるん?」

「うん。」


そう告げると左足の重さが消えた。

ふと左足を見れば、さっきまでがっちりホールドしていた白石の腕から力が抜けたらしい、どんだけ私に彼氏いたのショックだったんだろう何て思いながらも、そろそろと力の入っていない腕の中から足を抜く。

自由になった左足首をくりくり回しながら、燃え尽きたように真っ白になっている何とも云えない白石を見た…何か、ここまで見事に落ち込まれると私が悪いみたいで嫌なんですけど。

どうするかなぁ、と多少頭を悩ませていると屍のようになっていた白石がバッと勢い良く顔をあげた、これが、あのパーフェクトな部長のする顔だろうか。

白石は捨てられた子犬みたいに眉を下げて、性懲りもなくまた私の足にへばりついてきた。(右にすれば良いとかそういう事じゃないんだけど)

面倒臭いけど、白石を剥がそうと脳天にチョップを繰り出していると、白石は口を開く。


「彼氏おっても良えから俺と付き合うて!」

「貴様は日本語が通じないのか。どう足掻いても無理だっつってんの。」

「二番目でも良えから!」

「少女漫画か。てかさ、自分の状況分かって物云ってる?」

「俺は名前は好きで、名前は何処ぞの馬の骨とも分からへん輩と付き合うてて、せやけど俺は名前が好きや!付き合うて下さい!」

「何かツッコむのも嫌なんだけど、取り敢えず私の彼氏に謝れ。」


ごんっと鈍い音をたてながら、白石の頭に拳骨を降り下ろす、しかし、そんな攻撃にも怯まず白石は未だにそこを何とかー!と泪目で訴えてくる。

もう解放してくれ。


2012/06/12
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