「光ー、早くタオルー。」
「うっさい。って濡れたまんま入ってくんなや…!」
振り返れば全身びしょびしょの彼女。
メイクが雨に濡れてヤバい事になってちょっと引いてまうけど、一応俺の彼女。
アパートに帰ってきたら、俺の部屋の前に縮こまって座っとった。(粗大ゴミかと思ったわ)
名前さんは、まだー?とか云いながらずけずけと部屋に入ってくる。
誰が床拭くと思ってんねん、なんて愚痴を溢しつつ未だに部屋の中をうろうろしとる名前さんにバスタオルを渡した。
「もー、何で今日に限って雨が降るかな…天気空気読めー。」
「そういう下らん事は風呂入ってから云うて下さい。」
「え?」
俺がそう云うと、名前さんは目を真ん丸にして驚く。
「何や、夏いうても冷たいもんに当たったんやから風呂入るのなんか当たり前やろ。後、メイクキモいで。」
「何時になく光が(メイクの件以外は)優しい…ハッ!これは、何か裏が「良えから早う入ってこい。」はーい。」
一人でふざけとる名前さんを軽く蹴りながら半ば強引に風呂場に誘導。
全身びちょびちょに濡れとったから名前さんが歩いて行った後は、小さな水溜りがぽつぽつ出来てしもうてて、面倒臭がりながらもタオルで拭く。
風呂場の方から光ー、着替えはー?っちゅー声が聞こえてくる。
そういえば、何にも考えてへんかったなー、女物の服とか持っとる訳無いしどないしよかな。
まぁ、名前さんは何でも良えやろ。
適当に用意しときますわ、と返事をして、俺も後で風呂入ろ、なんて考えつつ名前さんが濡らした床を拭いた。
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名前さんが余りにも長い時間風呂を占領しとるから、入ったろか思って立ち上がったと同時に風呂場のドアが開く音がした。
光ー、ここに置いてある服着て良いのー?って聞こえてきたからそれ以外に何があんねん、着たくないんやったら全裸で出てきい、と答えた。
「エロ光最低です。」
「喧しい、さっさと着替えろや。」
ぎゃんぎゃん文句云いながらも用意した服を着とるんか、時々くぐもった声が聞こえる。
髪の毛ちゃんと乾かしてからやないと此方来んなと云えば、やっぱり文句を云う。
「名前さんが自分で濡れた所拭くんやったら別に良えけど、面倒臭がってしいひんやろ。」
「いや、確かにそうなんですけどもー。」
適当に答えてお茶を沸かしとると、風呂場から頭をバサバサ拭きながら名前さんが出てきた…何でこの人は下穿いてないんや…阿呆なん?
俺が何にも云わずに(正しくは云えへんかった)ぽかーんとしとるからか、名前さんは、ちょっと光ー、私が幾ら美脚だからって見過ぎーとか訳の分からん事を云いながら此方に寄ってくる。
名前さんが、ぺたんっと俺の隣に座った時に冷たい滴が散ってきた。
あれだけ拭いてこいっちゅーたのに、こいつだけは…。
俺は名前さんの首に掛けられとったバスタオルを強引に奪って、わしゃわしゃと名前さんの頭を雑に拭く。
「痛いー。」
「自業自得やろ。痛くされたくなかったら自分で拭きや。」
「面倒だから、光拭いて。」
「この阿呆…。」
悪態を吐きながらも何やかんや頭を拭いてやってる俺は、名前さんに激甘やと思う。
ちゅーか、めっちゃイイ匂いするし、俺が使っとるのと同じなのに、名前さんから俺と同じ匂いがするとムラムラする。(征服しとるみたいな感覚)
俺は、名前さんの髪の毛を拭いていた手を止めてバスタオルを退けた。
そうすると、名前さんの白くて細い首とご対面…あー、何や。
今、物凄く名前さんの首噛みたなかったんやけど、まぁ、髪の毛拭いてやったし多少色々しても大丈夫やろ。
そう一人で納得してから、吸いつけられるように名前さんの首にかぷりと噛み付いた。
何や、少し甘い味がした気がする。
終いに噛んだ所をペロッと舐めると、名前さんが勢いよく振り返って俺の頬に全力のビンタを食らわした。
「…痛いんやけど。」
「いや、私も痛かったんだけど。」
「俺は名前さんの百倍は傷付きましたわ。」
「私だって光の千倍は傷付いたよ。」
「いや、どちらかっちゅーと俺の方が傷付いとります。」
「どうみても私の方が傷付いてますけど。」
「名前さんの目、節穴なんと違いますか?明らか俺の方がダメージでかいやん。」
阿呆阿呆ーと罵ると、名前さんは阿呆って云う人が阿呆なんですー!と指を指し、迫力ない睨みを効かせながらぺちぺちと俺を叩く、地味に痛い。
俺はパンチの隙をついて名前さんにデコピンをかましてやると、名前さんはぎゃうっ!と悲鳴をあげてからぱたりと床に倒れこむ。
最初は唸り声が聞こえてきとったけど、暫くすると死んだみたいに静かになった。
こういう時に話し掛けるとごっつ面倒な事になるから、取り敢えず気が済むまで放置する事にしよう。
俺がそう決めたのと同時に、名前さんがもごもごと床に向かって話す。
「折角、来てあげたのに。」
「只単に雨宿り出来る所がここしかなかっただけやろ。」
「く…っ!何故それが分かった…!じゃなくてー、確かに雨宿りしに来たんですけど、そうじゃなくてって云うか、それだけじゃないって云うか…。」
「何スか、うじうじうじうじ。ハッキリ云えや。」
俺がきつめにそう云っても、名前さんは喃語みたいな声を発しながらくりくりと床を指で撫で回しとるだけで、一向に続きを話そうとしない。
余りにも話し出さへんから、俺は名前さんの腹辺りを横切る感じでのし掛かった。
「重、い…っ!」
「せやったら、早う答えたら良え。」
「か、勘違いしないでよ!私は別に、私の鞄の中にある水色の箱を光に渡しに来た訳じゃないんだからね!」
ツンデレの私とかどうよ?と聞いてくる名前さんを適当にあしらいながら、近くに置いてあった名前さんの鞄を手に取った。
鞄の中身が見えにくいから、名前さんの腰の位置まで頭を移動。
一応、見ても良いか許可を取ってから鞄のファスナーを開ける。
何や、見た目によらずちゃんと働いとるみたいで書類やら訳の分からん小難しいタイトルの本やらが合って、中々お目当ての水色の箱が見付からない。
「汚いわぁ…。」
「レディーの鞄掴まえて、汚いってどういう事よ。」
「事実やし…お、あった。」
話ながらごそごそ探していると、コスメポーチの下からひょっこりと水色の小さな箱が出てきた。
鞄から取り出して名前さんに、これっスか?と聞くと此方を見もせず適当にそうそうと返事をしてをバスタオル枕代わりに寝ていた。(ムカつくわ)
「開けても良えんスか?」
「…それ、ビックリ箱だから気を付けて。」
未だに目を閉じたままで喋る名前さんを尻目に、可愛らしくラッピングされたリボンを解いていく。
解き終わったリボンを名前さんの頭の上に置いて、ゆっくりと箱を開けた。
「あ、欲しかったアクセ。」
「合ってた?合ってた?」
「おん。これ、結構前に欲しい云うてたから名前さんの事やし、てっきり忘れとるって思ってましたわ。」
ネックレスを手にとって見ていると名前さんは、もっと他に云う事はないのかー!と手足をばたつかせて暴れた。
俺が起き上がってネックレスを着けようとすると、それよりも先に名前さんが反応して起き上がったせいで勢いよく頭を床に強打した。
「ごめん、今のは超ごめん。」
「いや、もう良え…それより、これ着けてもらえます?」
「うん!」
名前さんは少し不安そうな顔をしながらも、俺が怒ってないのが分かるとニッコリ笑ってネックレスを着けに掛かった、笑うな、可愛え。
数十秒後、出来たー!と云われて自分の胸元を見れば、ゆらゆらと揺れとった。
ぼーっとそれを眺めていると、名前さんが俺の前に回ってきて、じっとネックレスを見つめる。
「どや。」
「うん、似合ってる。やっぱり私の目に狂いはなかったね!」
そう云うて高笑いしとる名前さんに呆れながらも、頭をポンポンと撫でてやると、猫みたいに目を細めて嬉しそうに笑った。
その笑顔が可愛えって思ったのは絶対云わへん。
(名前さん、誕生日何が欲しいんスか?)
(お金と余裕かな。)
(働け。)
(もうヤダー!仕事疲れたよー!)
(転職したらどないです?)
(光の嫁か。)
(まぁ、名前さんがそれで良えなら俺は構いませんけど。)
(え…?)
(ほなら、名前さんの誕生日には俺の名字やったりますわ。それで良えやろ?)
(お、ぁ…はいっ!)
2012/07/20 Z.Hikaru HappyBirthDay.