今日だけ特別に時間がゆっくり進めば良いのに。
「金ちゃん…。」
「こら、いい加減にしとき。部活中に惚けとると迷惑や。」
私がタオル片手に金ちゃんをぽけーっと見ていると、後ろからぽかっと軽く叩かれた。
ハッと我に帰って後ろを振り返ると、そこには少しだけ呆れたような白石。
白石はスポーツドリンクを飲んで左手を差し出してきたので私は「ほい。」と云ってタオルを手渡した。
「おおきに。」
「や、別に。」
「そういえば、今度の練習試合の事なんやけど、」
「(流石金ちゃん。今のはナイススマッシュだったよ…!)」
「名前?」
「(それにしても金ちゃん、あんまり水分補給してないけど大丈夫かな…持っていった方が良いかな…)」
「名前。」
「へ?何か云った…いひゃいいひゃいいひゃい!」
私がやっと金ちゃんから目を離し白石が何か話しているのに気付く。
慌てて返事をしたけど白石は私の両頬を摘まんで、ぐにーっと引っ張った。
そして、眉間に皺を寄せてにっこりと笑いながら(器用な奴だなぁ)ホンマにいい加減にしいや?と頬を摘まみながら釘を刺す。
大人しく首を上下に振るとやっと摘まむのを止めてくれたけど、暫くやられていたので痛い。
痛かったと呟くと名前が人の話聞かんからやでと返された。
私は未だに痛む頬を擦りながら今度の試合について白石から話を聞いた。
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空に一番星が見えた頃、やっと部活が終わり皆バラバラと帰っていく中、私はある人物を校門の前で待った。
何時もなら出てくるまでは結構暇だから携帯をつつきながら待つんだけど、何故か今日は特別に早かった。
「名前ー!」
「あ、金ちゃん。お疲れ様ー。」
「遅うなって堪忍っ!」
そう云いながら苦笑いで頬っぺたを掻く金ちゃんに私は、そんなに待ってないから大丈夫だよと云ってへらっと笑う。
そうすれば、金ちゃんは良かったぁと少しだけ大袈裟に胸を撫で下ろした。
「ほな、帰ろか!」
「うん。」
二人が歩き出すと同時に、すっと私の前に差し出された金ちゃんの手。
私が首を傾げると、金ちゃんは満面の笑み。
「手繋がへん?」
「あ、はい。」
つい敬語になってしまった自分に恥ずかしいと思いながら差し出された左手に遠慮がちに右手を絡める。
すると金ちゃんはさっきの普通の繋ぎ方なんかじゃなく、ぎゅっと互いの指を絡める、所謂恋人繋ぎという…。
少しだけ動揺しながら隣を見れば、相変わらずの笑顔。
私が情けなさそうに眉を下げていたからか金ちゃんは私のおでこに人差し指をぴとっと当てて、ごっつ変な顔してんでー!と云ってまた笑った。
何か、私の方が年上なのに最近どっちが年上なんだか分かんなくなる位に金ちゃんが急に大人っぽくなった、身長とかじゃなくてメンタルとかもっともっと深い所。
少しだけ淋しい、でも、嬉しい。
私がへらっと笑うと金ちゃんはどないしたん?と云いながらも笑う。
今日は大切な記念日だから笑って祝福しよう、この日のために沢山悩んでやっと決めたプレゼントも勇気を出して渡そう。
だから、あともう少しだけ、繋いだ手に力を込めて、私は君への言葉を紡ぐ。
2012/04/01 T.Kintaro HappyBirthDay.